幸せのかけら 45

道明寺は翌日には
あたしの部屋の荷物も運びだしちゃって

付き合って3日で始めた同棲も3ヶ月が経った頃
世の中はクリスマスを迎えようとしていた。


『幸せのかけら』   第45話


お休みだったこの日、
道明寺へのクリスマスプレゼントを買いに
桜子とショッピングへ出かけていた。

「どうしたんです、先輩」
「ん?何が?」
少し休もうと入ったカフェで
突然聞かれて首をかしげる。

「気に入った物が見つかったわりには浮かない顔してますよ」
「別にそんなつもりはないんだけど…」

道明寺へのプレゼントは
6年前よりはうんと奮発した新しい万年筆。
気に入って使ってくれてるのは本当に嬉しいんだけど
やっぱり彼の立場を考えると
そろそろ新調してもいい頃だと思う。

それでも
思い入れの強いあの万年筆を超える物は
なかなか見つからなくて
桜子に付き合ってもらうのも今日で3回目。
そしてやっと気に入る物が見つかって満足はしてる。

「会いたくなっちゃいました?」
ニヤリと意地悪く笑う桜子は最初からわかってたみたい。

実は今、道明寺は2週間の出張中。
帰ってくるのは3日後のイヴで
だからこそ彼のいない間にプレゼントを選んでおきたかった。

…だけど。
喜んでくれるかな、なんて考えたり
街を行き交う恋人たちを目にしてるうちに
だんだんと楽しみよりも寂しさの方が大きくなってしまった。

「…うん」
意地を張る気にもなれなくて
小さくため息をついたあたしに
「仲良さそうで何よりです」
ふふっと笑う桜子は満足そうだ。



そして迎えたイヴ。
メープルも満室で忙しい1日だけど
あたしが帰る頃には戻れると朝に連絡があっただけで
どんなにバタバタしてても頑張れるんだからあたしも現金だ。

仕事を終えて帰宅すると
『外で食うよりお前が作ったモンが食いたい』
なんて彼のリクエストに応えて
下ごしらえだけ済ませておいた料理を仕上げていく。

__もうすぐ会える。

そう思うだけで1人キッチンでニヤニヤしてしまうあたしは
鼻歌交じりできっとすごく変な顔をしてたんだと思う。

「ククッ…楽しそうだな」
なんて可笑しそうに笑う声にビックリして振り返ったそこには
2週間ぶりの彼の姿。

「わっ…!
 帰ってきたなら声かけてくれたらいいのに」
「いや、そのつもりだったが
 あんまり可愛いからしばらく眺めてた」
なんて言いながらあたしをぎゅっと抱きしめてくれる。

「おかえりなさい」
「ただいま。
 お前不足でマジで死ぬかと思った」

「プッ。また大袈裟な事言ってる」
「マジだっつの」
不満そうな声にもクスクス笑ってたけど
寂しくて死にそうだったのはあたしの方だと思うから
そう言ってくれるのがくすぐったくて嬉しかった。


食事を済ませた後はプレゼントを渡すと
万年筆を手にした彼は
「いいな、これ。
 サンキュ。大事に使う」
と喜んでくれてあたしまで嬉しくなった。

「…で、これは?今読んでいいのか?」
そう聞かれたのは万年筆と一緒に入れた手紙。

長い文章じゃなくて、ほんの一言だけ。

「声には出さないでね?恥ずかしいから」
そう言うと
そっと手紙を開くとすぐに驚いたようにあたしを見た。

「…え?」
驚くような事は書いてないはずなんだけど…
彼の反応が予想外で首をかしげてると

「これはオレからだ」
と取り出したのはビロードのケース。

開けてみ?と促され
手渡されたそれをそっと開いてみると…

中に入ってたのは
華奢なデザインの綺麗なリングとメッセージカード。

「それはあくまでも誓いのつもりで
 こういう事は自分の口で言うつもりだったが
 やっぱ先にメッセージカード見てみてくれねぇか?」
そう言われて、そっとカードを引き抜いて開いてみる。

『世界で一番お前を愛してる。
 一生大事にするから 結婚してください』

力強い彼の字で大きくそう書いてある。
そして、その下には少し小さめの字で

『つくしって名前で呼びたい』

そんな文字も続けられていた。

「これ…っ!」
カードを見てさっき彼が驚いた意味がやっとわかった。

だって…だって。

『出会えて本当に良かった。
 これからもずっとそばにいて下さい』
手紙に書いた1文はこれで

『名前で呼んでもいいですか?』
同じようにそう続けて書いたから。

「考えてる事同じだったな」
そう言って優しく笑う彼の顔がにじんでボヤける。

そんなあたしの左手の薬指にリングをはめると
ぎゅっと抱きしめてくれた。

「今だって信じられねぇくらい幸せなんだけどよ。
 オレはもっと幸せになりてぇんだ。
 だから、オレと結婚してくれ…つくし」
頭の上から聞こえた声はどこまでも優しくて真剣で。

「はい…お願いします」
彼のプロポーズに即答すると顔を上げて

「愛してる…司」
彼の瞳を見つめて言う。

するとまた抱きしめられて
その力の強さは息苦しいくらいだったんだけど

「…泣かすなよ」
そんな彼の小さな声が聞こえて
あたしは幸せな気分で満たされた。




~ fin ~



いつも応援ありがとうございます♡

★あとがきはまた近いうちに~
  コメントのお返事も遅れててスミマセ~ン💦★

「幸せのかけら」あとがき & 次回からは…

幸せのかけら

「幸せのかけら」

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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Memorial Tree 1

★新連載です。たぶん短め。
  司の記憶喪失分岐で、1話から爆弾投下してます!
  サクサク進めてハピエン目指して頑張りますが
  更新もノロノロになりそうなので心臓の弱い方は
  完結後に一気読みをオススメしておきます(´。・д人)★





「…チッ。類のヤロー
 ガキじゃねぇんだ。時間くらい守れっつの」

社会人になった今でも
相変わらずのマイペースの幼なじみに毒つきながらも
結局は約束の場所とは違うそこへとこっちから足を運んだ。


『Memorial Tree』   第1話


本来であればとっくに仕事も終えてるはずの時間。
だが、まだその相手にさえ会えていない。

イタリア出張の最終日、
類と仕事をしてから飲みに行く予定だった。

しかし…
「も、申し訳ございません。
 専務は…その、手の放せない案件と言いましょうか…」
しどろもどろになる秘書を見れば
またフラフラと行方を晦ました事くらい聞かなくてもわかる。

「…はぁぁ。いい。
 大体検討つくから。こっちから行ってみるわ」
「申し訳ございません」
ペコペコと頭を下げながら見送ろうとする秘書を
片手で制するとそのまま花沢をあとにした。


着いたのはトスカーナのワイン畑。
ここは確かまだオレ達が大学生だった頃か、
別荘地にする計画を蹴って
類が個人的に買い取ったと聞いてからもう10年。

そろそろ葡萄が出来る頃じゃねぇ?

らしくもなく思い出に浸りながらも
ひとまず母屋のエントランスへ向かえば使用人が出迎える。
「司様、お久しゅうございます」
「あぁ。類は?来てんだろ?」

「えぇ。類様なら丘の方へ」
「サンキュ。行ってみる」

…ったく。
オレの時間がどれだけ貴重かわかってんのか。
ガキん頃からは考えられねぇが
今じゃオレも道明寺HDの副社長という立場にある。

相手が類じゃねぇなら花沢ごと潰してんぞ?
あれでよく専務が務まってんな。

呆れながらも
丘を登って行けば目的の姿を見つけ

いつまで経っても変わらない幼なじみに小さく息をつく。

「おい、類っ!
 いい加減にしろよ、テメー」
「あれ?司?」
こっちの苛立ちもシカトして
むしろどうしてここにいるんだとでも言いたげな視線をよこす。

「今日の15時っつっただろうが」
「……あぁ。それ今日だっけ?忘れてた」
どこまでもマイペースな類に
怒るだけこっちの時間と体力が無駄になると
深いため息をついて自身を宥める。

「…っつか、何だよこの木。
 ここに こんなのあったっけか?」
そう視線を向けたのは類が向かい合っていた小さな木。

ここに来るのもずいぶんと久しぶりだが
オレの記憶ではこんな木は植えられてなかった。

ここにある4本の木は
まだオレ達が初等部だった頃に植えられ
20年という年月で立派に育ち
中央にセッティングされたテーブルセットを
日差しから守っている。

そして
奥の2本の木の間に植えられた背の低い木。

別にどこに何を植えようが類の勝手だが
その奥に見えていた雄大な景色を
遮ってしまっているようにも感じてどうにも気になった。

「あぁ、これ?お墓だよ」
「…墓?」
思いがけない言葉に首をかしげる。

「うん。樹木葬がいいって本人の希望でさ。
 だったら景色もいいし、ここにしようと思って。
 少しの雨風くらいならオレ達の木で守ってあげられるしね?」
そう言って木を見つめる類の眼差しはどこまでも優しくて
そこに眠る人物がこの場所を譲るほどに
類にとって大事な存在だと察するに容易い。

足を進めて類の隣に立つと
その場にしゃがんで無言のまま手を合わせた。

すると
サァ~ッと心地よい風が吹く。

まるでここに眠る誰かが
何かを伝えようとしたかのような
そんな不思議な風だった。

「まさか あいつも司が
 手を合わせてくれるとは思ってなかったかもね。
 今頃きっとクシャミしてるよ。…ううん、絶対してるスゴイやつ」
ククッと可笑しそうに笑う類。

「あ?こいつはオレの事も知ってんのかよ?」
何気なく聞き返した言葉に
類は笑うのをやめて真剣な顔つきになり

「…知ってるよ。
 お前は忘れてるけど、お前にとっても大切な人だよ」
なんて意味のわかんねぇ事を言ったかと思うと

「…で?何だっけ?」
とこれ以上詮索されるのを拒むように話題を変えた。

ま。聞かれたくねぇなら
無理に聞こうとも思わねぇけどよ。

「あ?あぁ…って仕事だっつの!」
立ち上がって蹴りを1発入れると
「そうだったね。ごめんごめん」
クスクス笑ってから

「また来るね」
と葉を指でそっと撫でると
丘を降りて行く類に続いたオレ。

そんなオレたちを
また優しい風が包み込んだ。





いつも応援ありがとうございます♡

★…えへ。皆さん大丈夫ですか?
  表と裏、逆だろってツッコまれそうですが(笑)
  とりあえずこのまま行きますよ~(*´▽`*)★

Memorial Tree 2

「お前毎日そんなに飲んでるの?」

仕事を終えて2人で飲んでいくうちに
まるであきらかのようなお節介を口にした類。


『Memorial Tree』   第2話


飲むと言っても
小言を言われるほど飲んでる訳じゃねぇ。

「あ?これくらい普通だろ?」
「…それが普通なら、異常だよ」
小さくため息をつく類。

自慢じゃねぇが酒には強い。
悪酔いして絡んでるわけでもねぇのに…

そこまで考えて類の言いたい事の目星がつく。

「類…お前、もう眠てぇんだろ?」
長年不眠のオレとは真逆で
この歳になっても1日8時間睡眠でも
まだ寝足りないと文句を言うのがこいつ。

ったく。
酒を煽った所で眠りなんて
降りてくる事もねぇオレからすれば羨ましいくらいだぞ。

だが、そんなオレの予想とは裏腹に

「んー…まぁそれもあるっちゃあるけど。
 今日、あそこ行ったからかな。
 あいつならそう言う気がするから言ってみただけ」

あそこ…と言うのはトスカーナの丘で
あいつ、というのはあの木の下で眠る誰かだろう。

フンッ。
誰だか知らねぇが余計なお世話だ。

そいつにオレが背負う重圧がわかんのか?
ずっと心の中にある闇が見えんのか?

「最後までお前の心配ばっかしてたよ。
 テレビとか雑誌で見る度に顔色が悪いって」
「ほっとけよ」
テレビで見るって…そんな遠くから見てただけかよ。
類の口調からしても
オレは知らなくても もっと近くにいたのかと思ってた。

「あと目つきも悪いって」
「あぁ?」
それってただの悪口じゃねぇのか?
それはそいつが言ったのか、それとも類なのか。
どちらにしても類を睨みつけたが

「お前には幸せになってほしいって」
「……」
最後にポツリと呟いた言葉に何故か何も言えなくなった。

誰だか知らねぇが
死ぬ間際までそんな事を考えてた奴がいたのか…?

「だから
 不摂生もいい加減にして
 ちゃんと見つけなよ、お前なりの幸せってヤツ?」
あと目つきも気をつけなよ、と
ククッと笑う類はふざけているようで
その瞳の奥は真剣だった。

「…うるせぇよ」

別に不幸だなんて思ってるわけじゃない。
…かと言って満たされてるわけでもねぇが。

ずっとデケェ何かが欠けてる気がしていても
何が足りねぇのか、頭の中に靄がかかってるようでスッキリしない。

別に類に言われたからじゃねぇが
この日はこれ以上飲む気にもならなくて
解散する事にした。

「じゃあな、またどっかで会おうぜ」
「ん」
そう手をあげ踵を返してすぐに

「司」
呼び止められ振り返る。

「もし…もしさ。
 …やっぱりいいや」
「はぁ?」
わざわざ呼び止めておいて
中途半端な態度を取る類に怪訝な顔を向ける。

「ううん、何でもない。もしもの話だから。
 今のお前にはわかんないだろうし。じゃあね、バイバイ」
こっちの疑問もスルーで
ひらひらと手を振り去っていく類の後姿を見送ったその時、

『バイバイ、道明寺』

そんな誰かの声が聞こえた気がしたが
その声の主と思わしき人物はいなくてオレもその場を去る。


__その夜だった。

珍しく素直に眠りが降りてきたかと思えば夢を見た。


怒ったかと思えば笑う。
そうかと思えば今度は泣いて、また笑う。

コロコロと忙しく表情を変える女。

『道明寺』
明るい声でオレを呼んで
手招きしてるくせに
捕まえようと伸ばした手はあと少しの所で届かない。

もどかしいのに追いかける事をやめようとは思えず
むしろそれを楽しんでいるオレがいた。

あぁ…そうだ。そうだった。

オレが求めていたのはこの感覚だ。
ずっと欠けていたのはコレだ。

そこにお前がいるだけで満たされる。
あの頃のオレは確かに幸せだった。

こんな大事な事を忘れていたなんて……。

『牧野!』
そう最愛の女の名を呼べば嬉しそうに笑った。
その顔にドキッと心臓が跳ねる。

そこで目が覚めた。


夢の中と同じように
伸ばした手は何もない天井へと伸びていて
全身にはあり得ねぇほどの汗をかいている。

記憶を取り戻した衝撃と
寝起き直後で混乱する脳内。
ゆっくりとその手を返し己の掌を見る。

「……っ」
どこからどこまでが夢だ?
何が現実だ?

慌ててケータイを手にすると
類の番号を呼び出した。

類がすぐに出ない事などいつもの事だが
呼び出し音のコールが永遠のように長く感じる。

『……司?』
しつこく鳴らし続けてやっと聞こえた声。

「今日、オレと会ったか?」
『…は?酔ってるの?』

「いいから答えろっ!」
『会ったよ。
 っていうかさっきまで飲んでたじゃん』

「……」
『それがどうかした?』

「……」
『司?』

「……誰の墓だ」
聞きたくない。
聞いてしまったらきっと正気ではいられない。
でも聞かずにはいられない。

『まさかとは思ってたけど
 本当に思い出したの?
 でも遅いよ。牧野はもうここにいないから』




いつも応援ありがとうございます♡

Memorial Tree 3

「道明寺?いるの?」
「勝手に入ってくんじゃねぇよ」

見舞いに来たあいつに冷たく当たり
追い返した事が一体何回あっただろうか。


『Memorial Tree』   第3話


追い返しても追い返しても
会う度に何もなかったかのように
オレの名を笑顔で気安く呼んでくる。

オレはこんな女知らねぇのに
あいつらにとっては大事な仲間で…。
その雰囲気がまたオレをイラつかせた。

今思えば
ただの嫉妬だったのかもしれねぇ。

お前がいる時は
あいつらの表情も柔らかくて
お前を失い、深い闇に落ちたオレには眩しかった。

「早く思い出せ、司」
「後悔すんのはお前だぞ?」

そう言われる度に
自分だけ取り残されているようで
惨めな気分がさらに焦りを募らせた。

でもお前はそこにいたんだから
焦る必要なんてどこにもなかったんだ。

その光に手を伸ばせば
きっとお前は笑ってこの手を掴んでくれてたはずだ。

それなのに…。
お前はオレの見舞いに
バイトのない日は顔を出すようになったこいつを
何度口汚く罵って追い返したかわかんねぇ。

そんな事が続いて2年が経ったある日。

何度追い返しても聞かねぇし
その度にタマやあいつらから小言は言われるし
そんなやりとりが面倒くさくなる頃には

オレもあいつの存在に慣れちまって
まだ受け入れる事は出来なくても
牧野が邸を出入りする事に文句を言う事はなくなっていた。

だが、その日は自分でもわかんねぇが
朝から頭痛がひどくてイラつき
とにかく感情のコントロールが出来なかった。

そこにいつものように
のん気な顔で現れたのがお前。

「タマさんがさ。
 全然ご飯食べてないって言うから…これ。
 あ。材料とかはキッチン借りたから変な物じゃないよ」
そう言って差し出された弁当をオレは壁に投げつけた。

それだけじゃねぇ。

床に無残に散らばったおかずを
黙ったまま拾うこいつに近寄ると
そこに転がっていた弁当箱を踏みつぶした。

「誰がこんな貧乏人の作ったモンなんて食うかよ。
 ちょっと甘い顔してやったからって調子乗ってんじゃねぇぞ?
 わかったら2度とオレの前に現れんじゃねぇ。…帰れよっ!」
理不尽に怒鳴りつけたオレに
ビクッと肩を揺らしながらも片付け終わったお前は力なく笑って

「…また来るね」
確かにあいつはそう言ったが
その日を境にピタッと来なくなった。

そしてオレは
自分の中にあるわずかな動揺を隠すように
目障りなのがウロつかなくなって清々してるんだと
何度もそう言い聞かせながらも
誰も通ってなどいない邸の門を眺める事が増えた。

今となってはもう遅すぎるが
あれがお前を取り戻すラストチャンスだったんだろう。

あの時、お前の弁当を受け取っていれば…
会いたいと思う自分の心を認めてお前に会いに行ってたら…

きっと何かが変わっていたはずだ。

だがそれも
時間と共にいつしか気に留める事もなくなっていた事にさえ
今気付いたオレはどこまでも どうしようもねぇバカだ。


類との電話を切った後、
自分がどう行動したか覚えてねぇが

なんでもいいからとにかくお前に謝りたくて
気が付いたらトスカーナの丘のあの木の前に立っていた。

「……」
謝りたくて来たはずなのに
ここに立つと言葉が出ねぇ。

ここにお前が眠ってるなんて信じたくない。
お前がいない世界など認めたくない。

やっぱ、謝るならお前の顔見て謝りてぇよ…

許さなくていいから
“このバカッ!”って殴ってこいよ。

「会いてぇよ…」

謝罪より先に漏れた本音。

だが、それに返事は当然なかった。



「いつまでそうしてるつもり?
 今日NYに帰るんだろ?西田が迎えに来てるよ」
聞こえた声に顔を上げれば
いつの間にか日が昇り始め辺りが明るくなってきていた。

「…どうしてここに こいつの墓がある?」
「昨日言わなかった?
 樹木葬ならここの景色がいいと思ったからだって」

「そんな事聞いてんじゃねぇ。
 どうして類の所にいるんだって聞いてんだよ」
「あの時のお前に頼んだら引き受けた?」
肩を竦めて聞き返してくる類に返せる言葉はなかった。

嫉妬できる立場にないとわかっていても
あいつが最後に頼ったのが類だというのが悔しくて仕方ない。

「…いつからここにいる?」
「んー…。もう5年になるかな。
 苗木だったこの木も大きくなるはずだよ」

「5年…」
そんなに長い間
最愛の女の死すら知らずに
のうのうと生きてきた自分が情けない。

「でも最後は笑ってたよ」
小さく息をついた類が
牧野の木を見ながらポツリと呟く。

「そう、か…」
曖昧に頷いた。

苦しみが少なかったのであれば幸いだが
だからと言ってよかったとは言えない。
最後まで寄り添ってくれた類に礼なんて言いたくない。

ただ、オレの中にあるのは
激しい後悔と嫉妬と自身への嫌悪。

視界の端に西田が見える。
そろそろ時間も限界ってとこか。

とても仕事なんて気分じゃねぇし
こいつに言わなきゃなんねぇ事も言えてねぇ。

かと言ってやっぱり
お前がいねぇ現実を受け止められなくて
ごめんの一言が口から出せるわけでもねぇ。

そんなオレに類は続けた。

「昨日さ、言いかけてやめた事。
 “謝らなくていい、会いに来なくていい。
  だから自分の事は忘れて、幸せになってくれ”
 もしいつか記憶が戻ってこの木の存在を知ったら
 お前に伝えてくれって頼まれてた。
 思い出した奴にもう1度忘れろって…牧野もひどいよね」
困ったように類は小さく笑って見せたが

「会いに来るな、か。
 フッ…。そりゃそうだよな…」
自嘲気味な笑いが出る。
お前にフラれるのはこれで何度目なのか。

その度に諦めずに追いかけてきた。
だが…もう謝る事さえ許してはもらえない。

ただ、確かなのは
お前にもう会えないという事。

この胸に蘇った愛を貫こうにも
5年も前に完全にフラれていた現実に
前にも後ろにも進めず立ち尽くすしかなかった。




いつも応援ありがとうございます♡

Memorial Tree 4

「副社長、少しは休まれた方が…」
「構わねぇから持って来い」

西田の言葉を遮りそう言えば
黙って頭を下げると踵を返した。


『Memorial Tree』   第4話


記憶を取り戻して2週間。

とにかく何かしてねぇと落ち着けなくて
そんなオレに残っているのは仕事くらいしかなかった。

頭が回らなくなるまで仕事して
限界になったら気を失うように少し眠る。
そんな事の繰り返し。

類から記憶の事でも聞いたのか
あいつらからも立て続けに連絡があったが
会えば嫌でも牧野を思い出さずにはいられねぇだろうと断った。


__コンコン。

「入れ」
西田が戻ってきたのかと返事をしたが
入ってきたのは類だった。

「や。元気…ではなさそうだね」
オレの顔を見るなり肩を竦めた。

「アポなんて許可してねぇぞ」
類に何の落ち度もねぇのはわかっていても
ハッキリ言って今はまだ一番見たくねぇ顔だ。

だが、こいつは
どこまでも自分のペースを崩さない。

「うん。だからすぐ帰るよ。
 今日はコレ届けに来ただけだからさ」
そう言う類の腕にやたらとデケェ包みが
抱えられていた事に今さら気付く。

「……なんだよ、それ」
「んー…牧野の分身?
 見張り役にはちょうどいいかなって」
クスッと笑うこいつは
オレの目の前にドンッと包みを置くと解きだす。

その中から現れたのは
鉢に植えられた30cmくらいの細い木。

「あの木から分けた枝だよ。
 ちゃんと手入れしたらもっと大きくなるよ」
そう言って見せられたのは
類も育てているのか
これよりは明らかに大きくなった同じ木の写真。


会いに来るなと言われていても
時間を作ってトスカーナにはもう一度行こうと思っていた。

牧野の事を考えれば気が狂いそうになるのに
結局オレの精神をギリギリで保っているのは
牧野へのこの気持ちに他ならねぇわけで
あいつを感じねぇ日々にも限界を感じていた。

「…っつか 見張りってなんだよ」
頼りねぇ枝に付いた葉に触れながら聞く。

「バカな事考えないように?」
肩を竦め一見冗談のように言うが おそらく本気。
オレが自暴自棄になるじゃないかと心配してるんだろう。

「…そこまでバカじゃねぇよ」
「そ?ならいいんだけど」

考えなかったわけじゃない。

睡眠薬を飲む時も
ふと、例えば手持ちの分を一気に飲めば
あいつの元へと行けるのか…そんな事が頭を過る。

「なぁ…」
「ん?」

「…地獄にはいねぇよな?やっぱ」
「クスッ。牧野だもんね。
 …でも意外と冷静で驚いた」

かつて地獄にだって追いかけて行くとは言ったが
どこまでもまっすぐでお人好しなあいつが
地獄に堕ちるはずなんてねぇ。

どっちにしても会えねぇなら
わざわざ死ぬ理由もねぇ…それだけだ。

「死ぬまでに徳を積めばいいんじゃない?」
「あ?」

「これから先何十年あるか知らないけどさ。
 社員とその家族のために働けば
 俺たちも天国に行ける可能性くらいはあるでしょ?」

「それまでこの地獄にいろってか?」
「地獄の方が似合ってるんじゃない?
 放っておいたら支配とかし始めちゃったりしてね?」
どこまで本気で言ってんだか知らねぇが
クスクスと可笑しそうに笑う類を横目にもう一度 葉に触れるオレに

「で?
 いらないなら持って帰るけど?」
そう意地の悪い視線をよこす。

「いらねぇとは言ってねぇよ」
チッと舌打ちを返す。

考えてみれば
牧野との思い出の品なんてオレは1つも持ってねぇし。

……。
かと言ってこれを牧野と思えるかは別だが。

そんなオレの視線も
敏感に感じ取るこいつは

「それ、牧野の分身だからね。
 枯らしたら牧野が悲しむからちゃんと世話しなよ?」
そう続けやがる。
「脅しかよ」
だが、そう言われてしまえば枯らすわけにはいかない。

「牧野だって急にお前が現れて
 あっちでビックリしてるんじゃない?
 この間からクシャミの連続だと思うよ?」
可哀そうにと笑う類の顔を見ているうちに
ふと、マジであいつが鼻をすすってる音が聞こえたような気がした。





いつも応援ありがとうございます♡

ハロウィンナイト

「……」
「トリックオアトリート!」

深夜2時。
物音に目を覚ませば
何故か牧野がオレに跨っていた。


『ハロウィンナイト』


約束の4年を守り帰国して3年。

オレの予定ではとっくに結婚してるはずだったが
こいつの苗字は未だに牧野だ。

帰国した時は牧野はまだ学生で
結婚が現実的じゃなかったのはオレも納得の上だったし
働きたいというこいつの意思も尊重してやりたかった。

その代わりにと出した条件が道明寺への入社。

牧野はそれを受け入れ
自力で内定を取り付け、入社してきた。

だがこれがオレの首を絞める事になった。

「苗字が道明寺になんて働きにくくて困るっ」
入社してすぐのこいつは総務部に属していて
新入社員が支社長の嫁だなんて自分にとっても
周りにとっても いい環境だとは思えないと結婚を拒否。

はぁぁぁ。
信じられるか?

このオレ様のプロポーズを拒否だぞ?

だが結局は惚れてるのはオレの方なんだ。
仕事が楽しいと笑っていた顔を思い出しちまえば
何も言えなくなって 3年だけ待ってやると言って2年半。

今年の春には秘書課に異動させ
秘書課の人間にだけは婚約者だとすでに公表してある。

それから半年。
あいつが心配していたような事もなく
むしろ牧野がいる事でオレの機嫌が良くて助かると
人間関係もすこぶる良好だ。

だから来年の春には
今度こそ何の心配もなく
道明寺つくしになってもらおうと心に決めた。

そんなある日。

滋が突如 オフィスに現れたかと思えば
ハロウィンだか何だか知らねぇが
「今日は女同士で朝までパーティだから!」
とオレの許可も得ねぇままに牧野を搔っ攫って行きやがった。

普段なら連れ戻すところだが
来年結婚するなら独身最後のハロウィンと言う事になる。

あいつには言ってねぇがSPはつけてあるし
こういう事でもねぇと滅多に自分から遊んだりもしねぇから
たまには行かせてやるのもいいかと
『あんまり飲み過ぎるな。楽しんでこい』
と牧野にLINEを送っておいた。



「……」
で?何がどうなってこの状況かと考えたのは一瞬。

牧野から微かに匂うアルコールで大体状況はわかる。

ったく。
どうせ滋たちに合わせて飲んだってトコだろうが
飲み過ぎるなって言っただろう?

「トリックオアトリート」
とさっきから呪文を繰り返す
こいつの頭にはうさぎの耳がついていて
首にはチョーカー。服は胸元が開いた真っ白なワンピース。

深夜2時にたかが菓子のために
叩き起こされる意味はわかんねぇが
とりあえず可愛い。クソ可愛い。

あいつらが送り届けたのか、
自分の意思でここに来たのかは知らねぇが
着替える前にオレの所に戻ってきた事は褒めてやる。

「ハロウィンか?」
「そっ♡
 ちゃんとお菓子用意してるんでしょうね?」
まだ酔ってんのか楽しげなこいつ。

「こんな時間に急に言われてもねぇよ」
「だったらイタズラするよ?」
クスクスと笑いながらそう言う。

こいつ状況わかってんのか?
この状況で“イタズラ”するだなんて
好きな女に言われて困る男がいると思ってんのか?
むしろ期待しかねぇーっつの。

でもまぁ。
この状況を利用するのも面白ぇかもしんねぇな。

「わかった。ちょっと待ってろ」
そう言ってオレに乗っかってるこいつを下ろし
デスクの引き出しから用意しておいた物を取り出すと
こいつの正面に座りその小さな手に握らせた。

「え?ちゃんと用意しててくれたの?」
思いがけずお菓子を貰えた事に表情を輝かせるこいつ。

「…悪ぃがそれは菓子じゃねぇ。
 だからイタズラしたけりゃすればいいぞ?」
ニヤリと笑えば、
きょとんと首をかしげてから手の中を見る。

そこにあるのは菓子ではなくて
ビロードのケースに入った指輪。

驚きで酔いも覚めたらしいこいつは
でっけぇ瞳を瞬かせてオレを見上げた。

「約束の3年は来年の春だ。
 そろそろ指輪くらいしてくれてもいいだろ?」
「……」

「いい加減オレと結婚しろ」
「……命令形なの?
 ほんとオレ様なんだから」
クスッと笑いながらも頷いてくれた事に
内心すげぇホッとしながら
ケースから取り出したリングを左手の薬指にはめた。

「…で?」
「ん?」

「トリックオアトリート」
「は?」

「オレだって言う権利はあんじゃねぇの?」
「…お菓子欲しいの?
 でも滋さんの所で食べちゃってもう持ってないや」
ごめんね、と首をかしげるこいつは未だに白うさぎのままで
ハッキリ言って菓子なんかよりこいつの方がよっぽど美味そうだ。

「そりゃ残念だな」
わざとらしくため息をつき
もう一度立ち上がるとサイドチェストからゴムを取り出す。

「え…っと。あれ…?」
背中を向けていたが
この引き出しにコレが入っている事は
牧野も知ってるわけだから
理解したこいつは急にドギマギし始める…もう遅ぇよ。

口にゴムを咥え空いた手でガウンの紐を解く。

「イタズラしてやっから
 そこで大人しく待ってろ。…な?」
脱ぎながら首だけ振り向きそう言ってやれば
最低限の明かりしか灯っていない中でも
ハッキリとわかるほどに顔を真っ赤にさせた。


~ fin ~



★あとがき★

ハッピーハロウィンって事で

何もする気はなかったんですが
ふと芽が出たので短編出してみました( *´艸`)

ちなみに…
いいとこで終わってますが続きは書きません。
去年黒猫ちゃん書いたから
白うさぎちゃんは書きません(笑)

お待ち頂いてるお話もありますしね~(^^;)

こちらのお話の続きは
どうぞ皆さまの胸の中で…♡

ではでは
皆さまも素敵なハロウィンナイトをお過ごしください(*^^*)


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