SPECIAL THANKS 20

「あんた、
 久我さんと知り合いだったの?」

応接室に入る直前、
牧野がそんな事をコソッと聞いてきた。


『SPECIAL THANKS』   第20話


おっさんを信じたわけじゃねぇが
あのおっさんならマジで話を通してる気がして
アポなしで訪れてみれば

「お伺いしております。
 今案内させますので少々お待ち下さいませ」
とやっぱりすんなりと案内された。

ただ、オレを案内してる秘書の女は
聞いてなかったのか
オレが道明寺司だと認識した上で
アポなしで訪問してきた事を不思議に思ってるようだった。

この女でそうなんだ。
少なくともオレが現れる理由に心当たりがある牧野は
オレを見てでっけぇ瞳を落ちそうな程に見開き
口までパクパクさせてやがって思わず笑っちまいそうになった。


そこまでは良かったが

テーブルを囲むように配置されたソファに
おっさんとオレが向かい合い、
サイドに牧野を含めた4人が分かれて座っている
この状況は何だ?

どうしてオレがこいつらと
珈琲ブレイクしなきゃなんねぇんだよ。

そんなオレの疑問は
「仕事の客でもないのにもてなす必要あるかい。
 お前かて俺と差しで珈琲飲みたくて来たわけちゃうやろ?」
ククッと笑うおっさんに一蹴される。

「仕事ちゃうって…
 じゃあ道明寺さん何しに来たんです?」
と秘書の一人がオレに聞いてくるから
牧野に視線を送れば

余計な事を言うなとばかりに睨んできやがる。

「……牧野に聞けよ」
「なっ…!!」
オレにとっちゃ余計な事なんか1つもねぇが
喋るなと言うなら牧野が説明しろと話を振れば

面白ぇくらいに同時に3人が牧野の方へと首を動かした。

「う…。あ、あたしだって知りませんよ…」
困りきった表情を浮かべて言えば

「…て、言うてますけど?」
と1人が振り返る。

「わかんねぇなら仕方ねぇよな?
 だったらオレが答えてやる。牧野を口説くた…」
「ス、ストップッッ!!」
言いかけたオレの口を
慌てて立ち上がった牧野が塞いだが少し遅かったのか

「口説く…?
 牧野さんを口説きに来たって言おうとしました?」
「おぅ」
「ぎゃっ!」

「それってビジネスで?
 それとも恋愛的な意味で?」
「両方だ。こいつの心を手に入れて、引き抜く」
「あ―――っ!!聞こえませ―――んっ」

オレが何か言おうとする度に
大声を出してるこいつ。

そんな牧野を見て
「つくしちゃんが新しいキャラ開発してる」
と女の秘書にケラケラ笑われ
ごまかすのは諦めたのか元いた場所に戻ろうとした
牧野の腕を掴んで隣に座らせる。

「道明寺!!」
「お前からこっちに来たんだろ?」

「それはあんたがっ…」
「オレが?なんだよ言ってみ?
 聞こえてなかったんじゃねぇの?」
そう言ってみれば真っ赤な顔で
わき腹を容赦なく殴ってくるが無視だ、無視。

そんなやり取りの隣で

「なんか…道明寺さん
 テレビとかで見るイメージとちゃうな」
「な。もっとシュッとしてる人や思うてた」
「つくしちゃんも完全にキャラ変わってるで」
なんて事を言って

「お前らな。
 もうちょい静かに珈琲飲めんのか」
とおっさんが頬杖をついて呆れたような顔でオレらを見ていた。




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★関西弁(大阪弁?)講座。
  「シュッとしてる」…スマートな、カッコいい。みたいな感じです★

SPECIAL THANKS 21

「……はぁぁぁ」
「んな怒んなよ」

道明寺の突然の訪問から2時間。
どうしてだか移動中の車の中で2人きり。


『SPECIAL THANKS』   第21話


珈琲ブレイクのつもりが
道明寺との関係を根掘り葉掘り聞かれる流れになって

遠藤さんが
「…あれ?道明寺さんって昔テレビで
 迎えに行くとか何とか言ってた事ありませんでした?
 …って、まさか。その相手が…?」
なんてあたしを指さしたせいで
あの記者会見の話までバレてしまった。

それでもさすがに
記憶喪失の事まで話したりはしなかったから
3人は勝手に途中で別れたけれど
復縁を迫ってるだなんて解釈をしたようで…。

「別れた原因はやっぱり浮気とか?」
「違ぇっ」

「じゃあ何なんすか」
「…言うわけねぇだろ。
 でも悪ぃのは全部オレだ」
そう言ってバツが悪そうに視線をそらせば

「あー…わかった。アレだ。
 なんか特殊な性癖とかあるんちゃう?」
「バッ…!ぶっ殺すぞ!」

「そこはノリツッコミやろ?
 ムキになったら余計怪しいやん」
「……あ?」

“ノリツッコミ”ってなんだ?と
助けを求めるような道明寺の視線にため息をついていると

「完全にあいつらのオモチャやな」
と久我さんがククッと笑う。
「笑ってないで止めて下さいよ。
 っていうか、どうして遊びに来いなんて言ったんですか」
ムッとした顔を向けて抗議すれば

「面白そうやったから。
 それ以外に何があんねん」
当たり前みたいに言われてため息をつく。

あたしは全然面白くないっ!!

そんなあたしの不満もスルーして

「おい、つくし。
 次、京都ちゃうかったか?」
と時計を指さすから見てみれば
確かにそろそろ出なきゃいけない時間だった。

「わっ。ホントだ!
 すぐに準備してきます。
 車呼んでおくので先に駐車場に降りてください」
道明寺が3人に乗せられて
余計な事を言わないかも心配だけど
仕事は仕事だと頭を切り替えて秘書課へと戻った。


「……で?
 これは一体どういう事ですか?」
そう言いながら睨まずにはいられないのは
久我さんに並んで道明寺が車に乗り込んでいたから。

「なんでて…。
 あのまま放ってきてよかったんか?
 俺もつくしもおらんのに、こいつ何吐かされるかわからんぞ?」
「…帰ってもらえばいいじゃないですか」

「まだ時間あるんか聞いたらあるって言うからな。
 せっかく遥々こっちまで来たんや。
 俺が用事してる間、つくしも暇やろ?京都案内したれ」
「はぁっ!?」
とんでもない事を言い出す久我さんに

「用事って…おっさん仕事じゃねぇのかよ」
なんて怪訝そうに口を挟んだのは道明寺。

「仕事の後にちょっとな。
 仕事も今日は最初だけおってくれたらなんとかなるし
 その間だけちょっと待っとれ」
「いやいやっ!
 仕事はちゃんとしますっ!」
慌てて拒否したものの

「ええから。
 仕事言うても藤枝んとこやろ?
 あいつ相手やったら差しの方がやり易いからな」
不敵に笑う久我さんは
「そんなに仕事がええんやったら
 クソガキの接待って事にしとけ。
 一応こんなんでも道明寺HDの日本支社長やしな」
そう続けて

この後、軽い打ち合わせだけ済ませると
本当にあたしを道明寺の待つ車へと戻らせた。





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SPECIAL THANKS 22

おっさんが
何を考えてんのかは知らねぇが

牧野と過ごせるなら
この際何だっていい。


『SPECIAL THANKS』   第22話


牧野の同僚のこの3人。
ハッキリ言ってとことんウゼェ。

馴れ馴れしいだけじゃなく
距離も近ぇしデリカシーってモンも微塵もねぇ。

牧野のいる前で
別れた理由とか聞いてくんじゃねぇよっ!

でも…こいつらを敵にまわせば
牧野との距離がまた縮めにくくなる。

それだけは確かな気がして
怒鳴っちまいたいのをグッと堪えて相手をしてるうちに

おっさんがタイムリミットなのか
牧野が次の仕事の準備をすると部屋を出て行った。


「おい、クソガキ。
 俺はそろそろ出るけどお前どうするんや?」
「あ?」
どうするも何も牧野がいねぇんなら帰るに決まってんだろう。

そんなオレを見透かすように
「こんな時間に来るんや。まだ時間あるんやろ?
 晩飯くらいは食って帰ろうとか思ってたんちゃうんか?」
ニヤリと笑いながら聞いてくる。

確かにあわよくば、と思ってなくもなかった。
いちいち癪に障るおっさんだぜ、マジで。

「…すぐ帰って来んのかよ?」
「帰って来い言われれば帰って来れるけどな
 …まぁ、ええわ。お前暇なんやったらついて来い」
クイクイッと指1本で
オレに指図してくる奴なんかいねぇぞ、おいっ!

「いちいちムキになんなや、クソガキ。
 恭しくされてもそれはそれでムカつくんやろが」
ククッと笑いながら

「来ーへんのやったらそれでええけどな」
と踵を返して部屋を出て行くおっさんに
「チッ!」
舌打ちをしながらついて行く。


車に乗れば乗ったで
今度は牧野と京都観光して来いと言いだすおっさん。

マジで何考えてやがる?
余裕のつもりかよ。

それならそれでいい。
オレは牧野を取り戻すために
自分に出来る事をするしかねぇんだ。

そうやって余裕かましてる間に掻っ攫ってやる。



「……はぁぁぁ」
「んな怒んなよ」
車に戻ってきた牧野は
オレの顔を見るなり、盛大なため息を漏らす。

「怒りを通り越して呆れてんのよ」
「そーかよ」
小さく睨まれて肩を竦めれば

「…で?どこか行きたい所とかあるの?
 何だかわかんないけど、あんたの接待らしいから」
諦めたように聞いてくる。

接待にしては態度が最悪すぎんだろうと
文句の1つでも言いたくなるが

「なぁ、おっさん仕事中にどこ行ってんだ?」
と気になっていた事を聞く。
「あー…。ちょっとね。
 京都に来た時は必ず寄る所があるの…」
と質問に答えているようで
それ以上ツッコむなといった感じの言い回しにピンときた。

「…あの野郎。
 お前の他にも女いるのかよ?」
「は?」

「お前は本当にそれでいいのかよ?」
「…何が?」

「そんなにあいつがいいのかよ。
 お前が幸せなら…って思わなくもねぇけど
 やっぱお前にはこんな恋愛向かねぇよ。
 妻がいながら他にも女作って平気な顔してんだぞ?」
「……さっきから何の話してんの?」

隠したいのか、おっさんをかばってんのか
訝しげに首をかしげるこいつ。

「…お前、おっさんと付き合ってんだろ?」
これだけハッキリ言えば
ごまかしなんて出来ねぇだろうと言ってやれば

しばらく黙ってから
俯いて肩を震わせているこいつ。

「なぁ…不倫なんてやめろよ。
 そんな恋愛するくらいならオレんとこ戻って来いよ」
言いながら肩に手を置こうとした瞬間

「ふざけんなバカッ!!
 不倫なんてしてるわけないでしょうがっっ!!」

そんな怒号と共に腹に思いっきり拳を埋め込まれた。





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SPECIAL THANKS 23

「ふざけんなバカッ!!
 不倫なんてしてるわけないでしょうがっっ!!」

完全に油断していた所に埋め込まれた拳は
息も出来ねぇほど効いたが
それより…どこかホッとしてるオレがいた。


『SPECIAL THANKS』   第23話


牧野がおっさんに抱きついていた事とか
おっさんが堂々と牧野を“愛してる”と言った事とか。

腑に落ちてねぇ所も残ってるっちゃ残ってるが
それでもこいつは
自分を守るためなんかに嘘をついて殴ってきたりしねぇ。

それだけは確かで
とにかく不倫は誤解だったと心の底から安堵できた。


ただ、言われた通り観光をするにしても
自分もあんまり知らないからと
前におっさんに連れて来られて
気に入ったとかいう所にやってきた。

周りにはカップルもちらほらいて
オレらもそう見えるのかとそんな事を考えるが
実際はデートなんて雰囲気はこれっぽっちもなくて
隣を歩く牧野の機嫌はすこぶる悪ぃ。


「んな怒んなよ。な?」
「うるさいっっ!」

「悪かったって。
 オレだってこれでも結構悩んでたんだぜ?」
「あんたにはあたしが
 不倫なんて出来るような女に見えてるんだ?」

「ち、違ぇっ。
 でも…逆にそこまで追い詰めたのかと思ったんだよ。
 オレが…お前を傷つけたから。壊しちまったのかと思った」

バカみてぇにお人好しで
自分の事なんかいつだって二の次で。

オレの中にあるこのどす黒い感情でさえ浄化してきたこいつが
不倫だなんて、そんなの信じろって方が無理だった。

それでも
オレがあんな事にならなけりゃ…いや。
記憶なんかなくたってしっかりこいつの手を握ってさえいれば
そんな事考えもしなかったはずで。

黙り込んだオレに
もう1発軽めに食らわせると
「はぁぁぁ…ほんっとにバカ!
 そんなに弱くない事くらい知ってるでしょ!」
と呆れた顔を向けてくる。

「…わりぃ」
返す言葉もなくてこれしか言えねぇ。

「久我さんの名誉のために言っておくと
 不倫なんてしてないから。
 あんな感じだから誤解される事もあるみたいだけど
 美咲さんって奥さんがいて、すごく大事にされてるんだからね」

「…好きなのか?おっさんの事」
牧野が怒るのも承知で
それでも聞かずにいられないのはあの光景を忘れられないから。

「怒るよ、ほんとに。
 久我さんには感謝も尊敬もしてるけど
 そういうのじゃないって言ってるじゃない」
「だったら…
 どうしておっさんに抱きついたりしてたんだよ」
そんな立場じゃねぇとわかってても
どうしたって嫉妬心を抑えられねぇ。

そんなオレに首をかしげていた牧野は
やっと思い出したのか、ハッとしてから視線を逸らした。

「あー…あれ、ね。
 ちょっとじゃれてただけって言うか…
 あたしは全然気にしてないのに久我さんが
 セクハラしたんじゃないかって気にしてたから
 お返しにやっただけで、深い意味なんてないよ」
早口でそう言うと
もう行こうと戻ろうとするこいつの腕を掴む。

「セクハラって何されたんだよ?」
「だ、だからっ。何でもないって」

「やられた方じゃなくて
 やった方に自覚があんだぞ?
 それで何でもねぇわけねぇだろうがっ!何されたんだよ!」
「しつこい…っ」
牧野がオレの手を振り払おうとした瞬間

「こういう事したんや。ちょうどここで。な?」
とオレから牧野を引き剥がして
腕の中に閉じ込めたのは戻ってきたおっさん。

「やば。またやってもうた
 今度こそ訴えられるか?」
と悪びれる事もなくパッと腕をほどく。
「久我さんっ!」
驚いて見上げてる牧野。

「なんや。
 付き合ってへんのバラしたんか?
 勝手に誤解してて、おもろかったのに」
「久我さんがそうやって否定しないから
 誤解されるんです!美咲さんに言いつけますよ!?」

「お前が愛人言うたら喜ぶんちゃうか?
 美咲かてつくしが愛人やったらええ言うてるし?
 面白がっていっそ一緒に住むか言うてるくらいやぞ」
「ふざけないで下さいっ!」

「おいっ。オレを無視してんじゃねぇぞ。
 部下を抱きしめるなんて
 どっからどう見てもセクハラだろうが」
「だから違うって言ってんでしょ!」

「どこが違ぇんだよっ!
 お前まさか抱きしめられて嬉しかったとか言う気か!?」
「ふざけんな、バカッ!!」

ヒートアップしそうなオレらを止めたのは
「それぐらいにしとき」
スッと間に手を入れたおっさん。

「あれがセクハラ言うんはクソガキが正しいやろ。
 訴えられんかっただけや。つくしもかばってくれてありがとな」
と牧野の頭をポンポンと撫でる。

「そんなおもろい話でもないけど。
 聞きたいんやったら昔話したるからもうちょい付き合え」
そう言うと
踵を返して歩き出すおっさんについて行った。




いつも応援ありがとうございます♡

SPECIAL THANKS 24

★つかつくじゃないけど
  ある意味爆弾なのかも。一応ご注意くださいm(_ _)m★




料亭の個室。

料理が揃ったのをきっかけに
オレと牧野に向かい合うように座ったおっさんが口を開く。


『SPECIAL THANKS』   第24話


「営業部に配属されたんは
 入社してから4年経った頃やったか。
 元々営業希望やったから嬉しかったん覚えてるわ」
昔を懐かしむように話し始めるおっさんに
マジで昔話をするためだけにつれて来たのかと首をかしげる。

「久我さん成績も断トツで凄かったんだって」
そんなオレに隣から声をかけるのは牧野。

そういや、最初におっさんの事を調べた時に
そこを見込まれて会長の娘との縁談話が
持ち上がったとか書いてあった事を思い出す。

「それなりに必死やったからな。
 若さとか野心とか言えば聞こえはええけど
 出世する事だけが目標みたいになっとったなぁ」
そう肩を竦めるおっさんは

営業という職種柄、
どこで誰に会うか、どこからどう自分の言動が漏れるか
そんな所まで気を張り詰め
同僚や上司はもちろん、後輩や他部署の人間
果ては売店のおばちゃんにまで笑顔を振りまき
“自分”という人間を売り込んでいたという。

「ま。元々やりたかった仕事や。
 性格もこんなやしそれが苦やったわけでもないけどな」

ただそのオンもオフもねぇ生活に
音を上げたのが当時付き合っていた彼女だとため息をついた。

その彼女とは大学からの付き合いで
おっさんは結婚も視野に入れていたからこそ
仕事に打ち込んで結果を出したかったらしいが
彼女は出世よりも体を大事にしろと常々言っていたらしい。

そして営業部に配属されて2年ほど経った頃
彼女の方から別れを切り出されたと続けた。

「仕事仕事でドタキャンも何度したかわからんし
 久々にデートしても取引先の誰かに会ったりしたら
 そいつ放ったらかして、話し込むような男やったからな。
 ええ加減、愛想尽かされたくらいにしかそん時は思わんかったわ」

ただその影で動いていたのが
おっさんを気に入った会長で
その彼女の所へ使いの者を出して別れるように迫っていたらしい。

「別れて数か月後に見合いの話を切り出されて
 美咲とも何度か顔合わせた事もあったし
 気ぃ合う方やったし悪い話やないか思うて付き合うようになった。
 それが会長によって仕組まれてたやなんて
 俺が知ったのは全てが終わった時やったわ」
そう言ったおっさんの表情が一気に曇った。

「全てって…
 今の奥さんと結婚してからって事か?」
不思議に思って聞いてみれば

「あいつが事故に遭って亡くなったって知らせを受けた時や。
 その時には通夜も葬儀も全部終わってた。
 俺には知らせるなって言われてたらしくて迷ったけど
 やっぱり知らせんわけにもいかんってお袋さんが連絡くれたんや」

「そう…か」
それしか言えなかった。
だが、おっさんの話はまだ終わってなくて

「そいつの腹ん中には俺の子供もおった」
とどこか遠くを見つめるようにポツリと呟いた。

その事をおっさんは知ってたのかとは聞く必要はなかった。
知っていたなら別れてなんかねぇはずで
彼女の方からおっさんの出世の邪魔にならないようにと
ガキの事も隠して身を引いたんだろうって事は想像に容易い。

その後、
おっさんと同じで
何も知らなかった奥さんにも事の成り行きを話し
一時はお互い別れる事も考えたらしいが
「貴方の分まで、湊さんを大切にします」
と奥さんは彼女の墓前で手を合わせたという。

「…あたしがね、その彼女さんに少し似てて
 そのお腹の子供が産まれてたとしたらちょうどあたしくらいなんだって」
そう悲しそうに力なく笑う牧野は

おっさんは京都に来る事があれば
必ず彼女の墓参りに行っていて
おっさんに抱きしめられた日は
ちょうど彼女の命日で墓参りに行った後だった事を話してくれた。



 
いつも応援ありがとうございます♡

★オリキャラの悲しい話ですんませ~ん(-人-;)★

SPECIAL THANKS 25

「おもんない昔話はこれくらいにしとこか」

一通り話した後、おっさんはそう言うと
何事もなかったかのように食事に手をつけた。


『SPECIAL THANKS』   第25話


食事が終わって
牧野が車を呼ぶために席を外すと

「つくしをあいつの代わりとか
 そういう風に思ってるわけやないけどな。
 どうしたって他人とは思えんし可愛いわけや」

それが牧野を愛してると言った理由だと言う。

「なぁ…こっちも聞いてもええか?」
「なんだよ」

「別に答えたないんやったらそれでええけど。
 お前とつくしが別れたんて何が原因や?
 お互い顔も見たない程なんか思うたら
 普通にじゃれあったりしとるし。
 お前ら見てるとどうもしっくりこんねんなぁ…」
そう腕を組んで首をかしげるおっさんに
少し迷ったがごまかす気にもなれなくて話す事にした。

「オレが帰国したその日に
 刺されたってのは知ってるか?」
「あ?あー…そういやそんなニュースもあったか。
 でも大した事なかったみたいな事も言うてなかったか?」

「まぁな。
 傷自体は命に関わるようなモンじゃなかったし
 意識失ったのだってほんの数時間だ。
 だがその後遺症で
 ついこの間まであいつだけの記憶がなかった」
「…は?
 記憶がないって…なんやそれ」

「そのままだろ。
 目が覚めた時にはあいつの事だけ忘れてたんだよ。
 オレはあいつに根性叩き直されて今があるから
 あいつを失ったオレはクズに逆戻りってわけだ」
そう言ったオレに
しばらく訝しげな顔を向けていたおっさんは

「ちょー待て。じゃあ何か?
 内定蹴ったりしてたんは記憶がないお前で?」
「あぁ」

「思い出したから
 また口説きに来た言うんか?」
「…だからそう言ってんだろっ」

そう言ったオレを
しばらく探るように見ていたおっさんは
急に吹き出すように笑いだす。

「……ククッ!
 なんや不憫なやっちゃな、お前」
「チッ…!笑い事じゃねぇんだよっ」

「すまんすまん。
 お前がつくしを忘れてる間に
 つくしはケリつけてもうたわけか…なるほどな」
納得したように深く息をつくと

「お前の事情はわかったし
 同情してまう部分もあるけど
 俺はつくしの味方やからな。お前を応援したるとは言えんな」
と肩を竦める。
「別に同情なんていらねぇよ。
 オレはオレの力であいつを取り戻すだけだ」

記憶を失ったのは事故だったかもしれねぇ。
でもオレが牧野にやった事は
記憶喪失だったから、じゃすまされねぇ事くらいわかってる。

「……お前。
 勢いだけで言うてるんか思うたけど
 ほんまに諦める気ぃこれっぽっちもないんやな」
「あ?」

「つくしは完全にお前を過去として進んどるし
 ああなったらもう振り向かんやろ。
 ただでさえつくしは恐ろしいほどに頑固やしな」
「……」

「前に言うたやろ?
 取り返しのつかん事も世の中にはあるて。
 俺はあいつに謝る事さえ出来んかったけど
 謝る機会があっただけでもお前はツイとったんちゃうか」

おっさんの言いたい事がわかんねぇわけじゃねぇ。
牧野の答えは
記憶を取り戻してすぐに会いに行ったあの日に出てる。

「ごめん」と。

当然だ。
記憶が戻ったからまたやり直してくれだなんて
虫がいいにも程がある。

それでも、オレの答えは変わらねぇ。

「諦めるくらいなら死んだ方がマシだっつってんだろ。
 …ってか、あいつがいねぇとオレがオレでいられねぇ。
 それにあいつは確かに頑固だけどな
 オレはそれを上回るほどにしつけぇんだから何の問題もねぇよ」
そう言い切ったオレを
呆気にとられたような顔で見ていたおっさんは

「ククッ…。
 ほんまいけ好かんクソガキや」
と困ったような顔で笑ってから

「しゃーないな。
 ほな、気がすむまでやってみぃ。
 もしもつくしがお前の所に行きたい言うた時は
 引き抜きの話も黙って受けたろ。ま、無理やろけどな」
オレの肩をバシッと強めに叩いた。




いつも応援ありがとうございます♡

SPECIAL THANKS 26

あれから道明寺は
ちょくちょく現れるようになった。

それはもう
とんでもなく忙しいはずのあいつのどこに
そんな時間があるのかと疑いたくなるほどに。


『SPECIAL THANKS』   第26話


前は昼過ぎに現れて夕飯まで食べて行ったけれど
最近はほんの短い時間でも現れる事も多くて
下手すれば30分くらいで帰っていく。

現れる場所も会社だったり
家に帰るとドアの前に立ってたりと様々。

でもおかげで
いちいち驚かなくはなったかも。

そして今日も
アパートの階段を上った所で
ドアの前に影を見つけて、小さく息をついた。

ドアに背を預けてしゃがみ込んでいる道明寺は
近くまで行っても顔を上げない。

「…道明寺?」
不思議に思って
顔を覗き込むようにして声をかけてみれば

「ん…。あぁ、寝ちまってたか」
顔を上げて、小さく欠伸をする道明寺は
日も落ちかけて薄暗い中でも
疲れた顔をしてるのがわかる。

いつの間にか久我さんに
引き抜きの話をしてたらしい道明寺は
あとはあたしの承諾だけだと最近はそればっかり。

道明寺らしいと言えばそうなのかもしれないけれど
そんな話に頷けるはずもなくてずっと断り続けてる。

「いつから待ってたの?」
「1時間くらい前?」
腕時計を確認しながら言う。

だったら連絡してくれたらいいのに
そう言いかけて…口ごもる。

「ねぇ、あんま無理しないで。
 こんな事続けてたら倒れるよ?
 時間がある時だけ来たらいいじゃない」
「無理なんかしてねぇ」

「そんな疲れた顔して
 どこが無理してないって言うのよ」
こんな所でうたた寝しちゃうくらい疲れてるくせに。
そう続けようとした言葉は

「オレにとっちゃ
 会えねぇ方がよっぽど無理なんだよ。
 お前の顔見るだけで疲れなんて吹き飛ぶから心配すんな」
なんて顔を上げた道明寺が
あたしを見てホッとしたような顔するから言えなくて

「……今日はあとどれくらいいられるの?」
と聞いてしまう。

「30分くらいだな」
そう答えた道明寺に小さくため息をつく。

「ご飯は?」
「食ってねぇ」

「簡単な物しか出来ないけど…食べてく?」
そう聞いたあたしに
意外そうな顔を向けるのは
こうしてアパートの前で待っていても
部屋の中に入れるのは初めてだからだろう。

だけどあまりに黙ってるから

「やっぱりいつものカフェ行こっか。
 鞄だけ置いてくるからちょっと待ってて」
そう言いながら鍵を差し込めば

「バカ。食うに決まってんだろ」
道明寺は立ち上がると
あたしより先にドアを開けて勝手に入って行った。





いつも応援ありがとうございます♡

SPECIAL THANKS 27

「…へぇ。
 中は表ほどはボロくねぇんだな」

あたしより先に部屋へあがるこいつは
ぐるりと見渡してそんな余計なひと言を呟いた。


『SPECIAL THANKS』   第27話


おかずを作ってるあたしの隣には
道明寺がピッタリとくっついていて
やりにくいったらありゃしない。

「……ちょっと。
 お坊ちゃんのくせにお行儀悪いよ。
 黙って座って待ってるとか出来ないわけ?」
「お前がウロウロすんなって言ったんだろ?」

その道明寺の言葉通り
最初からこうやってくっついてたわけじゃなくて
部屋にあがると窓の外を見たり、
寝室の扉を開いたりしていたこいつに
「ウロウロするな」と言ったのはあたしだ。

「あたしは座ってろって意味で言ったの」
「いいじゃねぇかよ。見てるだけだろ?」
なんて言いながら
盛り付けたばかりの炒め物に
手を伸ばしてつまみ食いしてるこいつ。

「暇なら手伝って。
 そんなにゆっくりしてる時間もないんでしょ?」
そう言いながらお茶碗を渡して炊飯器を指さす。

一瞬 怪訝そうな顔で
何をすればいいのか考えていたようだけど
理解できたのか炊飯器の前まで行ってホッとしたのも束の間、

「…なぁ。これどうやって開けるんだ?」
なんて声が聞こえてきて
炊飯器がわかっただけでも奇跡だった事にガクッと頭を垂れた。

「ここ押したら開くから。
 食べる分だけしゃもじ…っとこれね。
 これでよそって。終わったらちゃんと蓋も閉めてよ?」
と今度はしゃもじって何だ?と聞かれる気がして
小さな子供に言うみたいに言えば

「しゃもじくらいわかるっつーの。
 お前の茶碗もよこせ。よそっておいてやる」
と炊飯器の開け方もわからないくせに
得意気に笑ってる道明寺にあたしのお茶碗も渡して
あたしはお味噌汁を用意した。


「…あんたねぇ
 何なのよこの量はっ」
そう言わずにいられないのは
あたしのご飯がバカみたいに山盛りにされたていたから。

「ククッ…お前ならそれくらい食えんだろ?」
そう言う道明寺のお茶碗には
あたしの半分も入ってない。

箸で山の部分をざっくりすくって
道明寺のお茶碗にそのまま乗せてやる。

「行儀悪ぃぞ?」
そう言いながらも乗せられたご飯を
一口すくって口に入れる。

「あんたに言われたくないわよ。
 無駄にデカい体してんだからしっかり食べなさい」
フンッと鼻を鳴らせば
「お前が作ってくれたんだろ?
 言われなくても全部食ってくっつーの」
なんてあたしをまっすぐに見つめてくるから
なんとなく居たたまれなくなる。

道明寺は
引き抜きの話はしても
自分の気持ちについては言わなくなったように思う。

それでも何気ない会話の中や仕草で
さりげなくそれを伝えてくる。

直接的な言葉で言えば
あたしがその気持ちを否定するのをわかってるんだろう。


その後
「やっぱコレ多すぎだろ」
とか山盛りのご飯に苦戦しつつも
綺麗に食べてくれた道明寺に紅茶を淹れる。

「…美味ぇな。
 お前茶葉に拘るほど紅茶好きだったか?」
なんて聞いてくる。

「ううん。そうじゃなくて、それ貰ったやつなの。
 あんたに出すならインスタントの珈琲よりはいいでしょ?」
「オレはあれを珈琲とは思ってねぇ」
なんて珈琲を好んでよく飲むこいつはムッとする。

それでも
付き合ってた頃も、この間も
残す事なく飲んでくれるのも
道明寺なりの気遣いだったんだろう。


時間になって見送ろうと玄関へ行く。

「ねぇ、ほんとに無理しないで。
 ちゃんと休息とってゆっくりしなよ」
「…だったらお前が東京に戻って来いよ。
 オレはお前に会いに来るのをやめる気はねぇ」

「うちは関西にしか支店はないの」
「だからオレんとこに来いって何度も言ってるだろ?」

「それは出来ないって
 何度もお断りしてるでしょ?」
「…わかってる。
 でも諦めねぇし、また来るからな」
ため息をつきながらそう言うと
おやすみ、とあたしの頭をポンと撫でて帰って行った。




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★やっぱりまだご褒美には早いので(笑)
   大人しく帰って頂きました(((*≧艸≦)ププ★
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