SMILE 16

結局、オレは牧野に何を怒られ、
何を許されたのかはよくわかんねぇが

すみれはオレと牧野の手をそれぞれ持って
オレたちの間を繋いで鼻歌を歌っている。


『SMILE』   第16話



「…っつーかよ。
 こんな大事な事黙ってんじゃねぇぞ」
オレがジト目で睨み付けながら言えば

「1人で産んで育てるって決めたんだもん」
とバツが悪そうに答える。
「そりゃ、あん時のお前ならそうするってのも
 理解できなくもねぇけどよ。今は違ぇだろ?」

「…一緒でしょ。
 あたしとの結婚をよく思わない人はいるだろうし
 おまけに子供まで出来てたなんて…
 あたしは別に何言われてもいいけど
 すみれやあんたが何か言われるのは耐えらんない…」
ゴニョゴニョと語尾を濁らせるこいつに小さく息をつく。

…あぁ、これか。
オレと付き合わねーって言い張ってた理由は。

…ったく。
オレがあのまま帰ってたら
マジですみれの事は黙ってるつもりだったって?

オレが何のために独身貫いたのかわかってんのかよ?
政略結婚なんかバカげた事しなくても
オレ1人いりゃ立て直せるって証明して
お前を堂々と妻に迎えるためだろうが。

重役の狸どもだって
経営も安定してる今、文句を言う奴なんていねぇっつーの。

「オレの人生はオレが決めんだよ。
 お前にもすみれに対しても誰にも何も言わるかよ。
 だから、牧野…。結婚すん……」
そう言いかけた時、

「あー!」
とすみれが急に大声を出した。

「何よ、急に大きな声出してっ」
牧野がすみれの顔を覗き込む。

「ママ、アイス3つ買ってきた?」
「え?アイス?」
「だって、パパも一緒に帰るんでしょ?
 だからパパの分のアイスなかったら可哀そうだよ」
「あー…っと…」
牧野はまさかさっき2人で食べたなんて言えずに言葉に詰まってるが

オレは別の理由で言葉に詰まっていた。

__パパ。

すみれは確かに今、オレをそう呼んだ。

すみれに視線を合わせるようにしゃがむと
「オレをパパって呼んでくれるのか?」
そう聞いてみる。

「え?だってあたしのパパなんでしょ?」
まるで当たり前だと言わんばかりにきょとんと首をかしげる。

「そうか…そうだな。あとな、
 すみれの分だって知らなくてアイス食っちまったんだ」
「え~っ!楽しみにしてたのにぃ…」
がっかりしたように肩を落としたすみれ。

「わ、悪ぃ…」
「悪ぃ、じゃないでしょ。ごめんなさいでしょ!」
今度は小さな頬をパンパンに膨らませたすみれに言われて

「ごめんなさい」
そう言えば
「いいよー!また今度買ってもらうから」
とニコッと笑う。

いきなり現れたオレをあっさり父親だと認めて
コロコロと表情を変える。

こんな所は牧野にそっくりだな。


「なぁ…牧野。
 やっぱすぐにでも結婚すんぞ。
 すみれのためにもそれが一番だろ?
 ……いや、違ぇな。結局はオレのためだな。
 オレはお前以外を妻にする気はねぇし、
 ちゃんとすみれの父親にだってなりてぇ。
 だからオレを幸せにしてくれよ。……2人で」

指輪も花束もねぇし。
幸せにするって約束するどころか、幸せにしてくれと懇願するなんて
プロポーズとしては最悪すぎる。

だけどこれが今のオレの正直な気持ちだ。

しばらくオレをまっすぐに見たまま黙ってた牧野は

「…すみれ。寮にいるとパパとは一緒に暮らせないの。
 だからパパの住んでるお家にお引越しする?
 でもそうすると航ちゃんたちとは
 一緒に暮らせなくなっちゃうんだけど…すみれはどうしたい?」
しゃがんですみれとまっすぐに視線を合わせて話をすると
急な選択を迫られたせいか、すみれの表情が少し曇った。

「難しかったらすぐに決めなくて…」
そう言いかけた牧野の言葉を遮るように
「パパと一緒がいい!お引越しする!
 航ちゃんたちにはまた会いに来たらいいもんね?」
とにっこり笑って牧野に言ってやがる。

一瞬呆気にとられていた牧野は立ち上がると
「…この決断力は間違いなくあんた譲りだわ」
クスッと笑いながらオレを見た。



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SMILE 17

「パパと一緒がいい!」

そう言ったすみれの顔に迷いはなくて
言わなかっただけでパパを恋しがってたんだと痛感した。



『SMILE』   第17話



すみれを妊娠してるって気付いた時は
とてもあたしと結婚するなんて言えるような状況じゃなくて
それどころか政略結婚の話が出てた事だって知ってた。

それでも道明寺はあたしの妊娠を知ったら
迷わず結婚を選んだんだと思う。

でもそんな事したら
財閥でのあんたの立場はどうなるの?
あたしと結婚したって財閥のためにはならないし
むしろ更なる窮地に陥りかねないんだよ?

それでもあたしと赤ちゃんを守るために
ボロボロになっていくあんたにあたしは何もしてあげられない。


…だからあたしは道明寺と別れて
1人でこの子を産んで育てていこうと決めた。


務めてた会社を辞めて、引っ越し先を探していたら
急にお腹が痛くなって蹲ってた時に出会ったのが女将さんで

「住む所探してる?だったらちょうどいいわ。
 小さな料亭やってるんだけどそこで働く気はない?
 寮もあるし、1人で過ごすよりずっと楽しいと思うわよ?」
と病院まで付き添ってくれたあと
膨らんだお腹でろくに動けないあたしを雇ってくれた。

颯太と奥さんの幸ちゃんは
あたしと入った時期も歳も近くて
仲良くなるのに時間はかからなかった。


そして寒かった冬が過ぎて少し暖かくなってきた頃
あたしは女の子を無事に出産した。


「つくしちゃん、赤ちゃんの名前決めた?」
お祝いに駆けつけてくれた幸ちゃんに聞かれて

「…すみれ。
 すみれってどうかな?」
「うんっ!いいね。可愛い名前っ!
 でも“笑”って字を入れたいって言ってなかった?」
そう首をかしげた幸ちゃん。

紙に“SMILE”と書いて見せる。

「漢字じゃないんだけどね。
 “SMILE”ってなんとなく“すみれ”って読めない?」

はじめて抱っこした時、
そんなはずないってわかってても
あたしには確かに赤ちゃんが笑った気がしたの。
だから名前にも笑顔を結びつけたかった。

この子はきっと笑顔が似合う子になる。
その笑顔で周りの人も笑顔にして
たくさんの人に愛される子になってほしいと願いを込めた。

そんなあたしの願い通り
すみれはよく笑う子で寮に住むみんなに可愛がられて
航ちゃんも産まれたりと寮はいつも賑やかで。

だから父親がそばにいなくても
すみれは恵まれているんだとも勝手に思ってた。


だけど今目の前で道明寺に甘えるすみれは
あたしが今まで見た事のない姿で。

「ねぇ、パパ。肩車できる?」
「…あ?肩車?
 いいけど、ちゃんと捕まってろよ?」

「きゃーっ!たかーいっ!!」
「おいっ。暴れたら落っこちるぞ!
 ……って!髪引っ張んじゃねぇよ」

最近ハマってた肩車もきっとその1つで
父親にしてほしい事はたくさんあったのに
ずっと我慢をさせてたんだと思い知らされた。

2人を見ていたあたしの視線に気付いた道明寺は
すみれを前にまわして片手で抱き直すと
「ほら」
とあたしにも空けた手を差し出す。

「……うん」
その手に自分の手を重ねると同時に
グイッと引っ張られてチュッと軽く唇が触れた。

すみれがいるのにっ!
と慌ててすみれを見てみると
ちゃっかり後ろを向かせていて見てはいなかったようだ。

ひとまずホッとすると同時にもう一度キス。

「(…ちょっと!)」
すみれに気付かれないように小声で抗議して
見上げたそこには嬉しそうな顔があって

「…やっと捕まえた。もう2度と離さねぇ」
ともう一度されたキスは

「あーっ。ママたち、ちゅーしてるー!」
とすみれにバッチリ見られてしまった。




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SMILE 18

★一応本編に入れてますが本日より実質番外編です。
  もう何もありませんが楽しいのでもう少しだけ続けます(^_^;)★



「で?牧野の娘はどこだ?」
「オレの娘だっ!」
「だから、お前と牧野の娘だろ?」

総二郎とあきらは
部屋に入って来るなりすみれの姿を探す。


『SMILE』   第18話



あれから1週間。

この期に及んでまだ
「今は人手不足だから辞められない」だの
「通うには遠すぎるからしばらくは寮にいる」だの
ゴチャゴチャとうっせぇつくしを
メープルから料亭へと人材を数人派遣させて黙らせ
なかば無理やりに邸に引っ越させた。

そして呼び名も牧野からつくしにした。

準備もあるしまだ籍は入れてねぇが、どうせ道明寺になるんだ。
すみれだっていつまでもオレたちの苗字がバラバラだと混乱するだろ?

すみれにはまだ使用人っつーモンが理解できず
この邸にいる全員が道明寺だと思ってたようだが
つくしに寮と同じように色んな人が
協力しながら家族として暮らしてると
そう説明されて一応理解はしたらしい。


「…お。前に言ってたのあれか?よく出来てんじゃん。
 お前の部屋にあると思うと、ちょっと笑っちまうけどな」

そう言いながらあきらが近寄って中を覗いているのは
部屋の一角に置かれた小さな小屋のような物。

「あぁ。気に入ったみてぇだ。
 つくしやタマとよくままごとしてるぞ」

今じゃ少しは慣れてあちこち邸の中を探索したりもしてるらしいが
引っ越してきて数日は部屋の隅に座ってほとんど動かねぇし
いくらオレには多少懐いてるっつっても
つくしが部屋から移動するとすげぇ不安そうな表情を浮かべていた。

「どうも広すぎて落ち着かないみたいなの」
とつくしに言われ、
それをあきらに話してみれば
妹たちが小せぇ時にままごとをするための
小さな家を庭に建てた事があると教えられた。

なんでもそれは女の子の城だとかで
双子たちは1日の大半をその家で過ごしていたと言う。

そこでオレは
すみれ専用のままごとハウスを部屋の中に特注で作らせた。

オレからの初めてのプレゼントは大成功で
すみれはすげぇ嬉しそうにその中で遊んでくれた。


「広すぎて落ち着かねぇって…
 ククッ…!さすが牧野の子供だな」
総二郎がゲラゲラ笑ってると

部屋の扉が開いてすみれが入ってくる。
だが、その表情はどう見ても不機嫌そうで
オレたちにかまう事なくままごとハウスに向かうと
入口を塞ぐように立っていたあきらをキッと睨みつけた。

「…失礼」
とあきらが扉を開けてやると立てこもるように入っちまった。

「お姫さまはずいぶんご機嫌が悪ぃみたいだな」
総二郎は苦笑いを浮かべる。

「すみれ?どうしたんだ」
入口の扉を開けて聞いてみれば
「…ママとケンカしたのっ」
と頬をパンパンに膨らませて怒りながら
ままごとハウスから出てきてオレの腕にしがみつく。

そんなすみれをすっと抱き上げて
「すみれ。こいつらはパパとママの友達だ」
とあきらと総二郎の方を向かせてみれば

「「すみれちゃん、よろしくな」」
と握手を求めるように手を差し出した2人をじーっと見てから

「こんにちは」
とまだ機嫌は少し悪そうだが手を出して握手に応じる。


そこにつくしが入ってきて
「すみれこっちに来てない…?ってやっぱり!
 あ。西門さん、美作さん久しぶり。来てたの?」
と小さく手を振る。

「来てたの、じゃねぇよ」
「何年も音信不通かと思えば、
 司のガキ産んでたなんてよ。
 水臭ぇのもいいかげんにしろっつーの」
そう2人にジト目で睨まれて
「あー…はは。ごめんごめん。
 あんた達に話したら司にバレたも同然でしょ?」
と気まずそうに笑ってごまかしてやがる。

「で?何で喧嘩したんだ?
 欲しいオモチャでもあったのか?
 んなもん、パパがいくらでも買ってやんぞ?」
オレが聞いてみれば首を横に振って

「ママが意地悪言ったの。あのね…」
そう言いかけたすみれの口を慌てて塞いだのはつくし。

「あーっ!ダメダメ!
 ママが悪かったからっ。ね?ごめんなさい」
真っ赤な顔してすみれに言うと

「んー…いいよ」
と不服そうにしながらも
ごめんなさいをされたらいいよと言ってしまうすみれは
あっさりとつくしを許しちまったらしい。

「…なんだよ。何言ったんだよ?」

「な…なんでもないよ。
 はいっ。この話はもう終わりっ!」
つくしもそう言って教える気はねぇようだが

普段すげぇ仲良いくせに
何が原因でケンカしたのか気になってしょうがねぇ。
だからオレはこっそりすみれに聞く事した。




いつも応援ありがとうございます♡

★さぁ、つくしちゃん何言っちゃった?★

SMILE 19

「あ。そういえば類は?」
「ちょっと遅れるってよ。
 つっても、もうそろそろ来るんじゃね?」

まるで話題をすり替えるようにそんな会話をした後
だったらお茶の用意をしてくるとつくしは部屋を出た。


『SMILE』   第19話


つくしが出て行ったのを確認してから
「どうしてママと喧嘩したんだ?」
と聞いてみる。

「ママがその話は終わりって言ったよ?」
と困った顔をする。
「パパだけ仲間はずれか?」
「んー…ママには言わない?」
「あぁ、言わねぇ。約束だ」

どっちにしろあとでバレて怒られたら
ごめんなさいすりゃいいんだろ?

なんて思いっきり油断してたところに

「えっとね。すみれがね、大きくなったら
 パパとけっこんするんだって、ママにお話したのね」
そんな事をいきなり言ってくるから、
迂闊にも泣きそうになったぞ。

「…パパと結婚してくれるのか?」
そう聞くと今度は首を振って

「でもねぇ、ママがダメだって」
「どうしてだ?」
まさか子供相手に親子だからとか
真面目に答えたのか?
大きくなればどうせわかんだから別にいいじゃねぇかよ。

「パパはママのだからダメって。
 ママの方がパパの事好きだからあげないんだって」

あ?あいつがそんな事言ったのか?
自分の娘相手にムキになって?

あぁ…ヤバい。マジで泣きそうだ。

どうしてあいつはオレにはこういう事は全然言わねぇくせに
こうやって思いもしねぇ角度から爆弾放り込んでくるんだ。

「おい…司が猛烈に感動してるぞ」
「おぉ。妻と娘に取り合いされるなんて
 絵に描いたような幸せな家庭だ。仕方ねぇさ」


「……司、顔気持ち悪いよ?」
そんな言葉でオレを現実の世界に連れ戻すのは
遅れてやってきた類。

類はオレの隣にいたすみれに視線を送ると
「あぁ、娘を盾に結婚迫ったって言ってたのがこの子?」

「あ?オレがいつ娘を盾に結婚迫ったんだよ」
「だって、この子がいなかったらフラれそうだったんでしょ?」
「……」

「ま…まぁまぁ、いいじゃねぇかよ。
 とにかく今は幸せなんだろ?
 子供の前でしょうもねぇ言い合いすんなよ」
不穏な空気になったオレと類の間にあきらが割って入る。

そんなあきらの言葉もスルーすると
「はい。プレゼント」
と類はすみれに小さな花束を渡す。

「……ありがとう」
すみれは花束を受け取ると隠れるように
オレの後ろへとまわった。

基本人懐っこくて人見知りをしないすみれ。
珍しいと思いながら恥ずかしそうに足にしがみつく姿を見ていると

「…花、嫌いだった?」
類もしゃがんですみれを覗き込む。
すると今度は完全にオレの足に顔を隠すようにしながらも
ブンブンと首を振った。

「類、お前嫌われたんじゃねぇの?」
オレが類に得意気に言ってやれば

「…いや。司、違うと思うぞ」
「あぁ…俺もそう思う」
と総二郎たちの笑顔が引き攣る。

「あ?どういう意味だよ」

「……顔の好みが一緒なんだろ、母親と」
「あぁ。小さくても女は女だからな。
 嫌いなんじゃなくて、気に入っちまったから照れてんだよ」
そんな2人の言葉に慌ててすみれを見てみれば
確かにかすかに見えてる耳が真っ赤になってやがる。

「す…すみれ!パパと結婚すんじゃねぇのか?」
「んー……」
「おいっ!すみれっ!!」

「ん?司は牧野と結婚しないの?
 じゃあ俺が牧野もらっちゃおうかなぁ」

「てめぇ…ぶっ殺すっ!!」
「イタイイタイッ!やめてよ司っ。冗談に決まってるじゃん」
「お前が言うと冗談に聞こえねぇんだよっ!」


「おまたせ…って、あんた達何揉めてるの?」
戻ってきたつくしの元へすみれも走っていく。

「お前なぁ…一番面倒くせぇトコ、
 娘に引き継がせてんじゃねぇよ」
「…はぁ?」
あきらにため息をつかれて首をかしげるつくしは
すみれが持ってた花を見て
「類にもらったの?よかったねぇ」
なんてのん気に言ってやがるし、
すみれは大事そうに花束をままごとハウスに持って行く。

全然良かねぇよっっ!!




いつも応援ありがとうございます♡

★ちなみに…すみれちゃん。
  今は司と話す時だけ自分をすみれと言います。甘えん坊設定です★

SMILE 20

坊っちゃんとつくしが別れて5年。
あたしゃもう正直2人はダメだと思ってたさね。

だけど諦めていなかったのは
坊っちゃんだけじゃなかったんだよ。


『SMILE』   第20話



つくしと別れてからの坊っちゃんは
そりゃもう寝る間も惜しんで財閥のために頑張ってさ。

何度も持ち上がる結婚の話にも耳を貸さず
自分の力だけで財閥を守ろうと…。

坊っちゃんはね、
どうしようもない所もあるけど
やると言ったら最後までやる男なんだ。

そんな坊っちゃんの努力が実を結んで
経営も安定してきたある日。
奥様と旦那様が珍しく揃ってこの邸にいた。

「タマ。司は…牧野さんの事は諦めてしまったと思うか?」
坊っちゃんさえ口にしなくなったのに
まさか旦那様の口からあんたの名前を聞くなんてね。

「…諦めきれないから独身なんでございましょう」

「そうよね…。
 でも司は彼女を探さないつもりらしいわ。
 私たちが言えた事じゃないとわかっていても
 牧野さんにまた会いたいのよ。そして…孫にも」
そう言って奥様があたしに見せたのは
つくしと、その手を握って笑う小さな女の子。

誰の子だ、と聞くまでもないクルクルの髪の毛。

「これは……」
驚くあたしに奥様は
「牧野さんがね、今務めてる料亭の女将は私の知人なの。
 最初は偶然出会って雇ったらしいのだけど
 産まれてきた赤ちゃんを見て、
 誰かに似てるわね?って連絡くれたのよ」

「そんな…じゃあつくしが身を引いたわけは…」
「この子の存在を隠すためでしょうね。
 私たちの負担になると思ったのでしょう。
 1人で産んで育てるなんて…彼女らしいと言えばいいのかしら?」

奥様は女将からつくしが出産費用を捻出するために
大きなお腹を抱えて働いていた話を聞いて
いくら女将がつくしの体調に十分配慮していたとしても
せめて出産の手助けくらいはしたかった、と悔やまれたそうだ。

「……でも2人が望んでいないなら
 私たちもこの手に抱きしめるのは諦めなければならないのだろうな」
そう言って写真を指で撫でる旦那様もまた
坊っちゃんと写真の女の子と同じ髪質の持ち主だ。

はぁぁ…。

つくし…諦めな。
この一族はそりゃもう、驚くほどにしつこいんだよ。

確かにあんたを認めるまで時間はかかったかもしれない。

だけどね。
一度惚れ込んでしまえば、途端に一途に思い続けるんだよ。

旦那様も奥様も、諦めなきゃいけないと言いながら
諦める気なんて毛頭ないのさ。

わざわざあたしにこの写真を見せたのがその証拠。
どうにかしろ、とこんな年寄りを動かしてまであんたを捕まえるつもりさ。

「だったら坊っちゃんを自然とつくしに会わせてみたらどうだい?」
小さく息をついて策を練るあたしもまた
この一族に長く仕えて、諦めるって言葉を忘れた1人かもしれないね。

料亭で働いてるなら、
坊っちゃんをその料亭に行かせるように仕向ければいい。
探してなくても坊っちゃんならきっとつくしに気付く。
そうなれば後はなるようにしかならないさ。


そんな話を2人にしてからどれくらい経ったのかねぇ。
奥様が会食にあの料亭を指定するように
相手先に頼んだのは聞いていた。

__きっともうそろそろさね。

『タマ。牧野とオレの娘を連れて帰るから準備頼むぞ』
出張から帰ってくるはずだったその日。
坊っちゃんから弾んだ声で電話が入った。

坊っちゃんにしっかりと手を握られて
帰ってきたつくしはどこか気まずそうな表情を浮かべていたけど

「…おかえり、つくし」
あたしがそう言うとつくしはじわっと涙を滲ませて頷いた。

「坊っちゃんも…
 いや、お嬢様がいるなら若旦那って呼ぶべきかねぇ」
あたしが2人の間にいた女の子を見て言えば

「牧野すみれです」
とペコッと頭を下げた。
帰ってきたつくしとすみれお嬢様をひと目見ようと
このエントランスにはたくさんの使用人が集まってるっていうのに
物怖じすることなく挨拶が出来るなんてさすがあんた達の子だよ。

そんなすみれお嬢様を抱き上げて
「もう牧野じゃなくなるぞ。
 道明寺すみれ、だ。練習しなきゃな」
と、優しく微笑んだ若旦那は本当に幸せそうで

気がついたらこのエントランス全体が
そんな親子3人を見つめる使用人の笑顔で溢れていたよ。




 
いつも応援ありがとうございます♡

SMILE 21

無事籍も入れて、これで正式に
つくしもすみれもオレの家族になった。

今日は颯太ん所のガキが産まれたとかで
赤ちゃんに会いに行くと言う2人に付き合ってやる。


『SMILE』   第21話


部屋に入ると
「すーちゃっ!」
と前にも見たガキがすみれに走りよってくる。

「航ちゃんっ!」
すみれも嬉しそうにそいつを抱きしめる……。

2人が同じ屋根の下で
それこそ姉弟みたに過ごしていて
仲がいいのはわかってるつもりだ。

……だけどよ。
そいつはガキとは言え男だろう?

んな簡単に触らせてんじゃねぇよ。
それでもさすがにここではあれだと一応我慢してやってたのに。

「今からそんなんで大丈夫かよ。」
と颯太にクスッと笑われる。

「あ?」
「まぁ…でも。
 俺もあんたを笑ってられるのも今のうちかもな」
と視線を送った先には嘘みてぇに小さい赤ん坊。

「…小せぇな」
思わず漏らした声に
「そりゃそうでしょ!
 あんまり大きかったら母体がもたないっつーの!」
とつくしにツッコまれる。

「そういや、すみれも同じくらいだったか?
 ……あんた、試しに抱いてみるか?」
そう言うと赤ん坊を抱き上げてオレに差し出してくる。

でもだからって
どう受け取ればいいのかわかんねぇし
触るのも怖ぇ。

「いや…。やめとく」
そう答えたもの想定内だったのか
「ははっ。いきなりはそりゃ無理か。
 俺も最初はめちゃくちゃビビったな。
 壊しちまうんじゃねぇかって思うほど小せぇし」

「可愛いならまだしも…。
 小さい、小さいって言わないでよ。
 産む方は大変なんだからね?わかってんの?」
つくしはそう言うと颯太から赤ん坊を抱っこして

「すみれもこんな時あったなぁ…」
なんて赤ん坊を見て微笑んでいる。
「ママ~。あたしにも見せて」
とすみれにせがまれて赤ん坊の顔を見せれば
すみれも恐る恐るほっぺを指で突いたりしてる。


それからしばらく女同士が喋ってんのを聞いてると
授乳するから男は出て行けと追い出された。


「……」
「……」

男2人になったからって、
何を話せばいいのかもわからず沈黙が流れる。

そしてその沈黙を破ったのは颯太だった。


「…あんたさ、腰を何回もナイフでザクザク刺された後に
 鼻からスイカが出てきたとして、そのスイカ見て笑えるか?」
「…は?」
あまりにも突拍子もない話に首をかしげた。

「幸…あー妻な?陣痛の痛みと出産の痛みって
 例えるとどんな感じだ?って聞いたらそう言うんだ」
「……そんな感じなのか?」

「らしいな。陣痛から何十時間もその痛みに耐えて
 マジで死んじまうんじゃねぇかってほど苦しんでるのにさ
 産まれた赤ん坊見た瞬間、すげぇ幸せそうに笑うんだよ」
「…すげぇな」

「あぁ。本当に敵わねぇよ。
 男に出来るのは自分の子を産んだ女とその子供を
 死んだって守ってやるって誓う事くらいしかねぇんだ」
「……」

「守れよ?」
「誰に言ってる」
そう言ったまま視線をぶつける事数秒。

「あんたなら大丈夫か。
 まさか、子供産んだ事も知らねぇとは思わなかったからよ。
 クズ野郎がどの面下げて戻ってきたかと思って
 マジで1発くらい殴ってやろうかと思ってたんだよ、実は。」
ククッと笑う颯太からは
もうオレへの敵意は感じねぇ。

「お詫びっちゃー何だけど、良いモンやるよ
 っつっても、オレは預かっただけなんだけどな」
そう言って颯太はオレに渡してきたのは封筒。
中には何か入ってるようだった。

「…1人で見た方がいいぞ?
 俺は見てねぇけど…すげぇらしいから」
ニヤリと笑うと、颯太は部屋に戻った。



 
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SMILE 22

「えぇ~っと…確かこの箱に…」

邸に帰って来ると
つくしはクローゼットの箱を開けて
何かを探してるようだった。


『SMILE』   第21話


「……何してんだ?」
オレが聞いてみれば
「ん?あぁ、幸ちゃんがね。
 すみれのお古で使わない洋服とかあったら
 欲しいって言ってたから…あ、あったあった!」
そう言って出して広げた服は
今のすみれからは想像できねぇほど小さい。

箱の中に残った服を1つ取って広げてみる。

「…こんなに小っちゃかったのか」
「そうだよ。これでも大きい方だったんだよ。
 そういう所もあんたに似たんだろうなぁ…」
としみじみするように言う。

「顔はお前だぞ」
「髪はぜったいあんた」
ケラケラ笑いながら言う。

「性格もお前に似てるよな」
「そう?あんた似だって思う事多いけど?」

「そんですげぇ可愛い」
「…だね」
2人でこれじゃただの親バカだと笑ったあと
つくしはすみれを風呂に入れて寝かしつけてくると出て行く。


1人残ったオレはしばらく箱の中にある
すみれの服や靴を手に取って眺めていたが

颯太に渡された物があったのを思い出して
デスクのパソコンを開く。

封筒の中にはDVDが何枚も入っていた。

『1人で見た方がいいぞ?
 俺は見てねぇけど…すげぇらしいから』

……まさかエロ動画とかじゃねぇだろうな?

そんな疑念も持ちながら
考えててもしょうがねぇ、と
一番上にあったDVDをセットした。



『…あらぁ?これで録画になったのかしら?』
そんな声と共に画面に映ってたのは…

『女将さん?何してるんですか?』
と首をかしげるつくし。
…そしてその腹は大きく膨らんでいた。

『ジャジャーン。ビデオ買ったのよ。
 赤ちゃん大きくなった時に見せてあげようと思ってね』
そう言いながらつくしのお腹を優しく撫でる女将の手。
『…あ!今動いたっ。
 ふふっ…嬉しいのかなぁ?』
そう言って笑うつくしの顔は慈愛に満ちていて、すげぇ綺麗だった。

編集されてるのか
パッと画面が切り替わってはすみれが少しずつ成長していく。

産まれたばかりのすみれは
今日見た赤ん坊と確かにそんなに変わらねぇ。

『つくしちゃんっ!良く頑張ったねぇ』
『えへへ…可愛い』
そう言って赤ん坊を抱っこして笑うつくし。

陣痛と出産がどれほど男にとって未知の世界か。
颯太の話を思い出して
画面の中でくたくたに疲れたように見えながらも
腕の中のすみれに嬉しそうに笑うつくしに言葉が出なかった。

過ぎ去った時間は戻らない。
んな事はわかってる。

たとえ男に出来る事なんて何もねぇって言われても
こいつの隣で頑張れって励まして
手ぇ握ったりしてやりたかった。
すみれが産まれた事を一緒に喜びたかった。


「…泣かないでよ」
ふわりと後ろから抱きしめられて
つくしにそう言われて初めて自分が泣いてる事に気付いた。

あぁ…だからあいつは1人で見ろって言ったのか。
気付かれねぇように小さく鼻をすする。

情けねぇ顔をこれ以上見られるのも嫌だが
映像を止める気にもなれねぇ。

だからつくしを膝に乗せるように抱きしめながら
画面の中で少しずつ大きくなっていくすみれと
つくしの姿を眺めていた。

つくしがこの時にこんな事があった、とか
映像の補足をするように話すのにも耳を傾ける。

「…言ったってどうしようもねぇのは
 わかってんだけどよ…やっぱオレもこの場にいたかった」
「ん。」

「でも…。産んでくれてありがとな」
「……」

「…つくし?」
黙りこんだこいつを覗き込んでみれば涙目になっていた。

「…もしかしたら、すみれは道明寺家からは
 望まれない子かもしれないってずっと思ってたから……
 それでも…産みたかったの。
 あんたと別れてでも愛した証が欲しかったの」
それだけ言うと
ずっと我慢してたみてぇに大きな瞳から涙を溢れさせた。

「望まねぇわけあるか。
 なぁ…抱っこの練習もするからよ。
 もう1人…いや何人でもいいな、また産んでくれねぇか?」
「…そりゃ家族が増えるのは幸せな事だし
 すみれもね、航ちゃん産まれた時には弟が、
 今日は女の子見てやっぱり妹が欲しいとか言ってたけど
 こればっかりは授かり物だからねぇ…赤ちゃんが来てくれたらいいね」
つくしはそんな風に答えたが

オレにはすでに見えてるぞ。

近い将来、すみれと弟か妹かは知らねぇが
子供達を中心にぎゃあぎゃあと泣いたり怒ったり
騒がしいながらも気がついたらゲラゲラ笑ってるオレらの姿がよ。

そんでオレは
その笑顔を守るために生きるんだ。



~ fin ~



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「SMILE」あとがき & 次回からは…

SMILE


「SMILE」

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