Blunt 1

「牧野さん。今日から別の所を頼みたいのよ」
「へ?別にいいですけど、どこまわればいいですか?」

そんな何気ない会話の数十分後。
主任のこの頼みを断っておけば良かったと
激しく後悔するなんてこの時のあたしは知る由もなかった。


『Blunt』   第1話


ビル清掃のバイトを始めて半年になる。
前は違うビルに派遣されていたけど人手不足だとかで
先週からこの道明寺HD日本支社の清掃員として入るようになった。


そんなある日、主任が焦った様子で
出勤したばかりのあたしに他の所を掃除して欲しいと言いだす。

「へ?別にいいですけど、どこまわればいいですか?」
気軽に答えたあたしに先輩は青い顔をしながら

「牧野ちゃん、掃除の手際がいいから
 専務の執務室をお願いしようと思ってるの…ダメかな?」
とボソッと申し訳なさそうにそして消えそうな声で言う。

まだまだ下っ端のあたしは
トイレだったり、階段だったり、小さな会議室だったりと
簡単な所だけを掃除するのが担当だった。

それがいきなり専務の執務室…?

「へ?あたしで大丈夫なんですか?」
首をかしげるあたしに
「いいのいいの!牧野さん清掃スタッフ歴は長いし
 勤務態度も真面目だし!じゃあ今日からお願いね。これマニュアル」
「はーい。頑張ります」
専務の執務室を担当するなら時給も上がると聞いて
上機嫌でマニュアルを読むあたしに

「くれぐれも牧野ちゃんは辞めないでね…?」
と主任は涙目になってあたしを抱きしめてくる主任に
そんなに人手不足が深刻なのか、と少し心配になった。




「時給まであげてもらって辞めるワケないじゃん…」
掃除の準備をして、意気揚々と専務の執務室のフロアに向かう。

エレベーターを降りて、
まず秘書課に行けと言われていたあたしは
部屋を探してキョロキョロしていると声が聞こえてきた。

このフロアには執務室と秘書課の他には
大きな会議室と応接室があるくらいで
普段は専務とその秘書くらいしかいない聞いていたあたしは
声のする方がそうだと歩き出す。

「専務…っ。あの…コレ、良かったら受け取って下さい」
「……」

だけど、どうやらお取込み中みたいで
思わず柱の陰に隠れてしまったあたし。

うはー…。タイミング悪…。
そう思いながらもチラッとその声の方を覗いてみると
綺麗な女の人と……もっと綺麗な顔した男の人。

そう言えば先輩が
専務は道明寺財閥の御曹司でイケメンだって騒いでたっけ…。
うんうん。確かにイケメンだわ。
お金持ちであの顔ならそりゃモテるわよね~…。

なんて思っていた次の瞬間。

「…何のつもりだ?」
と地を這うような低い声が聞こえる。

「なんの…って、その…。
 ずっと好きだったんです!気持ちだけでも伝えたくって…」
「そんな事はどうでもいい。
 てめぇは何しにここに来てんだって聞いてんだよ。
 そんな浮ついた気持ちで秘書なんかやられたら迷惑だ。
 明日から来なくていい。…失せろ」
告白しただけで何もそこまで…とは思いつつ、
その凍り付きそうな雰囲気に固まっていると

「うっ…。失礼しますっ!」
泣きながらその綺麗な女の人が
柱に隠れたあたしの横を走って行ってしまった。

「…で?てめぇは何してやがんだ?
 盗み聞きとはいい度胸してんじゃねぇか」
気が付くと、その声の主はすぐ横に立っていて…。

「はは…。今日からこのフロアの担当になりました清掃員です…」
と一応愛想笑いを浮かべてみたけれど…。
専務の表情は1ミリも崩れない…。

その後、専務室に連れていかれて説明を受ける。

「…牧野つくしだな」
そう言ってファイルを出してくると
あたしが通う大学だったり、家族構成だったり、
あたしの個人情報をさらさらと読み上げるこいつ。
「え…なんでそんな事…」
「最初に言っておくが、オレは誰も信用してない。
 この部屋に入る以上は、たとえ清掃スタッフでも調べるのは当然だ」
そう言った専務の瞳はどこまでも冷たく見えた。

「そっちの部屋は仮眠室だから掃除はいい。入るな」
と奥の扉を指さす。
「あとは…まぁ掃除くらい説明しなくてもバカでも出来るか。
 あ、くれぐれもオレの仕事の邪魔だけはするなよ?」
そう言って書類に目を通し始めた専務。

主任が辞めないでって言ってた意味が漸くわかった。
イケメンだか、御曹司だか知らないけど
中身がコレじゃ、時給が上がっても辞めたくなるわ…。

もしかして人手不足になってるのって
ここの担当になった人が次々辞めていくからなんじゃ…。

あたし…もしかしてとんでもない事引き受けちゃった…?
激しく後悔しても、時すでに遅し。

はぁぁ…とため息をついたのを聞いて何を勘違いしたのか

「お前までオレに惚れたとか、ふざけた事言うつもりだったのか?」
と眉間にしわを寄せるこいつ。

「はぁ?冗談じゃないです!
 全っっ然タイプじゃないですから、どうぞご心配なく!」

ほんとマジでありえないっつーのっっ!!





いつも応援ありがとうございます♡
スポンサーサイト

Blunt 2

専務があたしの1つ年上だと知った時は本気で驚いた。
高校の時にNYに飛んで大学をスキップして卒業し、
今年日本支社の専務として帰国してきたばかりらしい…。

優秀なのはいいけどさ。
やっぱりいけ好かない奴にかわりはないよね。


『Blunt』   第2話


「失礼しま~す…」
執務室の手前にある、秘書課も
執務室と続き部屋になってる事もあってあたしの担当。

「お疲れ様です」
そう声をかけてくれたのはあいつの第一秘書の西田さん。
「どっちから先にやった方がいいですか?」

最悪の出会いをした翌日、何も考えないまま
執務室をノックしたあたしは…地獄を見た。

「やる気がないならさっさと辞めろ。
 お前の代わりなどいくらでもいるんだからな」
「ひっ…申し訳ございません!」
「謝ってる暇があるなら、
 すぐにでもこのくだらねぇ企画書を練り直してきやがれ!!」
「はいっ…!!」

脱兎のごとくあたしの横を通り過ぎたのは
パパと同じくらいの歳なんじゃないかと思われるおじさんで…。

執務室にはどす黒いオーラを
その背後に漂わせている専務。

「てめぇもボサッとしてねぇで
 掃除するならさっさとしやがれ!」

あたし達を客観的に見ればきっと
ライオンの前に放り投げられたうさぎってとこ?

ひぃぃぃ。怖いってば!!

「し、失礼しますっ」
そう言って出来るだけ早く掃除を済ませたあたし。
その日以来、西田さんに入っても大丈夫か
必ず確認を取るようになった。


「今日は執務室からでお願いします」
そう言西田さんはただの清掃スタッフの
小娘に対しても頭を下げてくれるような紳士的な人で
この北極圏のように凍りつくフロアでは唯一の癒し。

西田さんがいなければ
あたしはすでにこのフロアにいなかったかもしれない。

「はい、わかりました」
ニコッと笑って、あたしは執務室をノックする。

「入れ」
「失礼します…」
そぉっと扉を開けて、静かに入ると
一瞬だけあたしに視線をよこした専務は
すぐにパソコンへと集中する。

変にこっちに気が向いてるよりスルーされてる方がやりやすい。
あの鋭い視線を浴びていては掃除もままならない。

さっさと片付けて秘書課に行こうと
専務の後ろにある大きな窓を拭き始めると

「…おい」
と低い声が聞こえる。
「…なんですか?」
「パソコン中は後ろに立つな。
 お前が情報を漏らさない保障はねぇからな」

…なによそれっ!
あたしがあんたのパソコン覗いて情報を盗むとでも言いたいの!?

絶対友達いないでしょ、こいつ!!

「失礼な奴だな。ダチくらいいるっつーの」
そんな声が聞こえてきてギョッとしてると

「お前のそれ、考えてる事口に出してんの癖か?
 バカにしか見えねぇから直した方がいいんじゃねぇの?
 ま、お前にはスパイだの何だのは無理だっつー事はわかったけどな」
と重厚なイスをクルッと回して振り向き
嫌な笑みを浮かべている専務。

ムカつく、ムカつく、ムカつく!!

つい力が入って、ガチャガチャと音を立てると
「うるせぇぞ。気が散るから掃除くらい静かにしろ」
と低い声で言われる始末。

その時ノックと共に西田さんが入ってくる。

「専務、美作様がお見えです」
そうペコッと頭を下げた後ろから入って来たのは

「よ~、司。約束よりちょっと早いけどいいか?
 …ってあれ?牧野じゃんか。何してんだ、こんなとこで」
と美作さんはあたしに驚く。

あたしは専務の横を通り過ぎて美作さんの所に駆け寄る。
「美作さんこそ!ってスーツって事はお仕事?
 あたし、この間からここの担当に変わったんだよね」

「へぇ~。司に苛められてねぇ?」
と面白そうに笑う美作さんに微妙な顔しか返せないあたし。

「お?マジで苛めらてんのか?」
美作さんがあたしの頭をポンポンと叩いて慰める。

「あ?誰が苛めてんだよ。
 ガチャガチャうるさくて気が散って仕方ねぇ。
 どっちかっつーと苛められてんのはこっちだろうが」
そう言いながら応接用のソファに移動する専務を無言で睨む。

執務室の掃除は一通り終わったとこだったし
おまけに来客ともなればあたしは秘書課に移動することにした。




いつも応援ありがとうございます♡

Blunt 3

秘書課に移るとそこには西田さんがいた。

「お掃除入っても大丈夫ですか?」
そう声をかけると
「はい。宜しくお願いします」
と頭を下げてくれる西田さんは誰かと違ってやっぱり紳士的だ。


『Blunt』   第3話


「そう言えば、美作様ともお知り合いで?」
美作さんとのやりとりを見ていた西田さんが尋ねる。

「あ~、このビルに配属される前は美作さんの所だったんです。
 専務と親しそうでしたけど、友達だったりするんですか?」
あたしの言葉に
「はい。美作様は言わば幼馴染のような方で、学生時代は
 その他に花沢様、西門様と4人でいらっしゃる事が多かったようです。
 専務が忙しくてなかなか捕まらないせいか
 公私関係なくよくここにいらっしゃっていますよ」
そう言って、雑誌に載ってる4人を見せてくれる西田さん。

「うはー。4人ともイケメンなんですね~。芸能人みたい…」
雑誌を見るあたしにクスッと笑うと
「牧野さんはどの方がお好みですか?」
と聞いてくるから
「う~ん…。あたし正直、イケメンすぎる人って緊張するから
 そんなに好きじゃないんですけどね。…強いて言うなら、この人。花沢類?」
そう言って誌面の顔を指さす。

「なんだ。オレじゃないのか?残念だよ」
後ろから聞こえた声に振り返るとそこには美作さん…と専務の姿。
「フンっ。こんな奴に好みって言われた類が可哀そうだろ」
と鼻を鳴らす専務。

いちいち癇に障る奴…。

「専務には関係ないじゃないですか」
あたしが言うと
「あぁ。関係ねぇな。
 ただいつまでサボってるつもりだって言ってんだよ。
 さっさと仕事済ませて帰りやがれってんだ!!」
と怒鳴りだした専務に肩を竦めて慌てて仕事に戻る。



数日後。

「ありゃ…西田さんいないのかな」
いつものように秘書課に顔をだしたあたしだったけど
西田さんどころか誰もいない…。

「う~…どうしよう…」
専務の執務室の前でノックしようと手を構えたまま
前みたいに修羅場だったらどうしようかと悩むあたし。

そっと重厚なドアに耳を当てて中を伺う。
…少なくとも怒鳴り声は聞こえないし…大丈夫よね?

コンコン。

「……」
中からの反応がない。

もしかして専務までいない、とか?
でも不在の時は前もって時間の変更とかもあるし…。
そぉっとドアノブに手をかけると鍵は開いているようだ。

人を信じていないと初日に断言していた専務は
自分がいない間は必ず施錠をしている。

だから鍵が開いてるって事は中にいるって事で…。

恐る恐る、そぉーっとドアを開けてみる。

「専務…?牧野です…」
中を覗いてみると専務は机に突っ伏していた。

「あれ…?寝てる?…珍しい」
勝手に掃除を始めたらまた何を言われるかわからないと
声だけはかけておこうと机に近寄る。

「専務?…掃除しても…」
そう声をかけて肩を叩こうとして手が止まる。
寝てるわりには荒い息使いに気が付いて、
専務が寝てるんじゃなくて蹲ってると気が付いた。

慌てて額に手を当てると驚くほど熱い。

「やだっ…!すごい熱っ。
 に、西田さんっ…っていないんだった…。
 えっと…。そうだ!!とりあえず救急車!」
1人でパニくりながらも机の上の電話に手を伸ばそうとすると

「う…うるせぇ。救急車なんて…呼びやがったら…クビ…にすんぞ」
そう言って赤い顔して睨んでくる専務。

「だって!こんなに熱が高いのに…死んじゃうよ…」
いつもの迫力のかけらもなくて、
腕を掴んだ手だって力が全然入ってなくて不安になって泣きそうになる。

「…こんな熱くらいで死ぬかよ。マジ…で、バカ…なんだな…お前」
「バカはどっちよ!こんな熱出して…救急車がダメなら…」

せめてこんなイスじゃなくて
どこか休める場所はと執務室を見渡して奥の扉が目に入る。

「専務、ちょっと立てます?肩貸しますからちょっと頑張って下さい」
そう言って専務を支えながら立ち上がらせる。

「てめぇ…。何するつもりだ。…病院なんか、行かねぇぞ…」
「わかってますよ!でもせめて横になった方がいいです。
 あの奥って仮眠室って言ってましたよね?そこで休んでください!」

あたしがそう言ってフラフラな専務をなんとか支えながら進みだすと

「ふ、ざけんなっ。あの部屋には…
 機密事項の書類も…入るなって最初にも言った…」

文句を言おうとしている専務に
「うるさいっ!文句は治ってからいくらでも聞きます。
 とりあえず今は横になって下さい!!ほら、鍵は?どこですか!?」
あたしが怒鳴ると言い返す気力も残ってないのか
ポケットから鍵を出した専務。

「開けますからね?いいですね?」
あたしが確認すると小さく舌打ちをする専務を
肯定したと受け取って鍵を開けた。





いつも応援ありがとうございます♡

Blunt 4

ドアを開けたそこには
仮眠室と言うよりどこかのホテルのスイートのような

豪華な部屋が広がっていた。


『Blunt』   第4話



「ベッドはどこですか?」
ここまで来るとさすがに専務も諦めたのか
黙って顎で奥の扉をさす。

なんとかベッドまで運んでジャケットだけ脱がして寝かせる。
リビングの方に戻って部屋を見渡すと
小さなキッチンがある事に気付いて
氷水でタオルを絞って、スポーツドリンクと一緒に持って行く。

ベッドルームに戻ると、
「水分だけでも取った方がいいです。飲めます?」
そう言って背中を支えながら起こして、蓋を開けたボトルを渡すと
腕を上げるのも辛そうにしながら言われるままに飲む。

飲み終わったら再び寝かせて
「専務?ちょっとひんやりしますからね?」
一応声をかけてからタオルを乗せると
一瞬ピクッとしてからふぅっと息をつく。

「じゃあ少し休んでください。何か欲しい物あったら
 あたしここにいますから、声かけて下さいね?」
そう言って部屋に置いてあるソファに腰かける。

「…おまえ。…そこに、いるつもりなのか?…ずっと?」
目を閉じたまま言う専務。

「はい。だって戻るって言っても
 あたしが機密事項盗むんじゃないかって疑うんですよね?
 だったらここに座ってる方が用事もすぐ聞けるし確かじゃないですか」
嫌味ったらしく返すと

「そう…か…」
一言だけ言うとすぐに眠ったようだった。






「…ん」
ふいに目が覚めて、どれくらいの時間寝ていたのかと
時計を確認すると2時間くらいだった。
そろそろ西田も帰ってくる頃か…。

そのわりに頭に乗せられたタオルは冷たくて気持ち良くて
気付かないうちに何度か交換してくれてたのだと知る。

部屋を見渡すと牧野はソファでクッションを抱きしめながら
うたた寝しているようだった。

マジでずっといたのか…。

ずっといるつもりか、と聞いた時、
あいつはオレが疑っていると思ったようだった。

もちろんその気持ちもあったかとは思う。
でもあの時…心配そうに世話をしてくれるこいつを
そばに置いておきたいと思った。



「専務…。もしかしてこちらですか?」
リビングの方から声がする。
西田にはこの部屋に入る事も許している。

「あぁ。…静かに入って来い」
オレが言うと、そっと扉を開けた西田は
牧野の姿を見て珍しく鉄仮面を崩して驚いていた。

そりゃそうだろう。
オレが西田やあきら達以外を仮眠室に入れたのは初めてだ。

「……お体の具合は?」
それでも一瞬で状況を判断したらしいこいつは
オレに聞いてくる。

「あぁ。こいつのおかげでさっきよりはずいぶん楽だ…」
「それは良かったです。
 でも今日はもうお帰り下さい。後は私で何とか致します」
そんな話をしていると牧野が目を覚ます。

「……あ!寝ちゃったっ。って西田さん!
 あ~…良かった。戻って来てくれたんですね」
と西田を見つけて安心したように笑うこいつに何故か腹が立つ。

「牧野さん。専務がご迷惑をおかけしたようで…申し訳ありません」
「え?いえ!そんな…迷惑だなんて…。
 あ、専務はどうですか?やっぱり病院行った方がいいと思うんですけど」
と話し始めると
自然と近寄る2人のその距離もすげぇ近いような気がしてくる。

「えぇ。専務には今日はもうお帰り頂こうかと思っております。
 …ただ専務は独り暮らしでして、帰っても世話をする者がおりません。
 私が付いて差し上げたい所なのですが…仕事も残っておりまして…」
そんな話を始める西田に心の中で首をかしげる。

確かにオレは普通なら会社からも近い独り暮らし用のマンションに帰る
だが、こういう場合は邸に戻るし、マンションにだって呼べば使用人くらい来る。

「…牧野さんさえ良ければ私が行くまで
 専務について差し上げて欲しいのですが…どうでしょう?」
「えっ……!?」
声を出したのは牧野だが、オレも西田の発言には驚いた。

何を言いだすんだ、こいつ。
ここよりプライベート空間のマンションに
こんな奴入れるわけねぇだろうが…。

「専務もそれでよろしいでしょうか?」
そう言ってオレを振り向く西田。

ふざけんじゃねぇ。
マンションになんか連れて行けるかよ!

オレは確かにそう言うつもりだった。
それなのに

「あ…ぁ。まかせる…」
そう言っちまったのはきっと熱のせいだ…。
そうに決まってる。




いつも応援ありがとうございます♡

Blunt 5

「清掃業者の方には私から話しておきます」
西田さんはそう言って頭を下げると

車の手配などをあっという間に整えてしまった。


『Blunt』   第5話


車の運転手さんはあたしを見てすごく驚いた顔をした。
まぁあたしも薄々そうなんじゃないかとは思ってたんだけど。

部屋に入った所で
「もしかしてこのマンションに入る人間ってほとんどいない…とか?」
一応まだ肩を貸している専務に聞いてみると
「あたりめーだろ。他人なら西田くらいしか入った事ねぇよ…」
とボソッと答える。

「えっ!だったらあたしやっぱり帰ります!
 西田さんにすぐ来てもらうように頼んできますっ」
そう言って帰ろうとすると、腕を掴まれた。

「ここまで来て帰るとか無責任すぎんだろ。
 引き受けたからには西田が来るまでちゃんとやれ」
会社を出る前に薬も飲んで熱が下がってきた専務は
いつもの傲慢さが少し戻ってきていた。

「……1人でも大丈夫なんじゃ…」
小さく呟いた言葉も密着している状態では聞こえたようで
「…それも心の声か?」
とわざと体重をかけてくる。

少し元気になったのはいいけれど、
何かと口うるさい専務をベッドに運ぶ。
「あちこち触るんじゃねぇぞ…」
「はいはい。わかってますよっ。
 専務こそ病人なんだから、さっさと寝て下さい」
そう言ってさっきと同じようにソファに座ったのを確認すると
専務はまだ辛いのかすぐに寝息を立て始めた。

しばらくそのまま本を読んだりしながら
時間を過ごしていると、

ぐぅぅぅ~。

間抜けな音がお腹が鳴って慌てておさえる。
そう言えば、昼前から専務といてお昼ご飯も抜きだったあたしに
西田さんがお弁当を用意してくれていた事を思い出して
リビングの方に戻ってお弁当を食べる。

でもそのお弁当は1つしかなくて
ご飯を食べてないのは専務も一緒で…
病人なんだから何か食べた方がいいに決まってる。

「…勝手に見たら怒るかな」
なんて一瞬迷いながら冷蔵庫を開けると
お酒とミネラルウォーターくらいしか入ってなくて食材は少ない。
…っていうよりは冷蔵庫に入っているのが
普段目にしない高級そうな食材ばかりでよくわからない。

結局、他人の家の冷蔵庫の中身で冒険する勇気もなくて
無難に卵粥を作る事にした。
専務が起きるまでの間についでにハチミツレモンも作る。

「ん。なかなか美味しい」
ハチミツレモンを入れたボトルを冷蔵庫に入れて
卵粥の準備を整える。

「よしっ…。あとは専務が起きるのを待…ってぎゃあ!」
調理器具も揃った所でそう言いかけると
後ろから専務が覆いかぶさってきた。

「起きたらいねぇから…帰っちまったのかと思った…何してる?」
寝ぼけてるのかいつもと違って甘えた口調の専務。

「あ…。専務ご飯食べてないから卵粥でもと思って…食べます?
 あと、ハチミツレモンも作ったんで良かったらあとで飲んで下さい」
「…お前は?」
「あたしは西田さんからお弁当もらってたので」
「……」
「…専務?食べれそうなら食べた方がいいですよ?
 それとも西田さんが来てからにしますか?
 あ、西田さんが持ってくるかもしれませんね。どうします?
 西田さんに連絡してみましょうか?」
「西田、西田ってうるせぇ…」
「は?」
何を言ってるのかと振り向こうと思っても重くて身動きが取れない。

「…卵粥っつったか?それ、作ってくれんだろ?…食う」
「あぁ…はい。じゃあ作るんで…その。どいてもらえますか?」
「……」
「やっぱりまだ辛いですか?今からでも病院行きます?」
「…いや。それ食って薬飲むからいい」
そう言って専務はダイニングのイスに座る。

それから卵粥が出来上がって差し出すと、
不思議そうに見つめてから、一口食べた専務は
「…へぇ。意外とうまいな」
正直に言うと専務の口に合うとは思ってなくて
美味しそうに食べてくれる姿に少し照れくさくなった。

「でも専務ってもしかして病院嫌いですか?」
「あ?ちげーよ」
そう否定するわりには病院に行く事を頑なに拒否するのに…
そんな事を考えているとクスッと笑った専務は

「…また声に出てるぞ。
 オレが病院に行けば重役のオヤジ共にバレるだろうが。
 あいつらはオレがジュニアってだけで
 専務のイスにふんぞり返ってると思ってっからな…。
 自己管理もできねぇのかってナメられたくねぇんだよ…」
そう言って忌々しげに舌打ちをする…。

熱を出したくらいで…そんな。

そう思う一方で、
『オレは誰も信用していない』

あんな言葉を口にするようになるまでに
専務には一体どれだけ辛い出来事があったのだろうと
あたしは初めてこの人の孤独を知った。






いつも応援ありがとうございます♡
プロフィール

koma

Author:koma
管理人komaの
くだらない妄想の世界へ
ようこそいらっしゃいました。

基本テイストとしては
ラブコメ風味の
ゆる~いつかつく道を
突っ走っております。

ご覧頂きありがとうございます♪
*カウンター*
 
*現在の閲覧者数*
komaの呟き。
毎日、毎日
あっついですねぇ(>_<)
 
皆さまも
体調崩されませんように…
 
ご自愛くださいませm(_ _)m
 
最新記事
最新コメント
カテゴリ
検索フォーム
リンク
素敵サイト様
*素敵なイラストなど♪* 管理人 まま様

*二次が生んだ二次作家様*
管理人 aoi様

*CP自在のファンタジスタ* 管理人 asuhana様

*イケメンイラスト&二次小説*
管理人 やこ様

*長編大作の巨匠様* 管理人 こ茶子様

*胸きゅん♡つかつく* 管理人 Happyending様

*カッコ可愛いつくしちゃん*
管理人 四葉様

*切なくも甘いつかつく*
管理人 きぃ様

*シビれるッ!つかつく♪*
管理人 lemmmon様

*とにかく司を愛する作家様*
管理人 蘭丸様
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる