The one 1

「つくしちゃんっっっ!!」

「椿さん。お久しぶりで……ぐえっ。く、苦しいです…」


『The one』   第1話


あたしの言葉を聞いて
慌てて腕をほどいてくれる椿さん。

椿さんとは街で偶然知り合ってから
普段海外を飛び回っている彼女が
日本に帰ってくる度に連絡をくれて会っている
あたしのお姉さんのようなお友達。

「…ごめんなさいね?私ったらつい…」
会う度についつい突進&抱きつき攻撃をしてくる
椿さんはシュンとしている。
これも毎回の恒例みたいなもの。

「いえ。もう慣れちゃいました。
 それに苦しいだけで嫌じゃないですよ?嬉しいです」
あたしが言うと椿さんはホッとしたようににっこり笑ってくれる。

椿さんと出会った時はそのオーラから
どこかのお嬢様なのかなとは思ったけど
まさかあの道明寺HDのご令嬢だなんて思いもせずに
この邸に連れてこられた時は眩暈がした。

「つくしちゃんに似合うと思ってたくさんお土産買ってきたのよ。
 いつものお部屋に置いてるからあとで見て頂戴ね?」

椿さんは帰国の度に山のようなお土産を買ってきてくれるのだけど
独り暮らししてるあたしのマンションには
とても入りきらない量で…。
受け取れないと言うと、邸にあたしの部屋を作ったと言う…。

強引と言うか、なんと言うか…。
お金持ちの考える事って、まったく。

「椿さん…いつも本当にありがたいんですが
 あたし使う機会もないですから、お気持ちだけで十分です」
あたしが苦笑いしながら言うと

「あたしがしたくてしてる事だから
 つくしちゃんが気にする事ないのよ!
 あなたみたいな妹がいたら楽しいだろうなって
 本気で思ってるんだから!」
と頬を膨らませる。

本当に綺麗な顔してるのに
これだから、どんなに強引でも憎めない椿さん。

「あたしも椿さんを本当のお姉さんみたいに思ってますよ?
 …って全然似てないから申し訳ないけど」
あたしが言うと椿さんは涙目になってあたしを抱きしめる。

「あぁ…なんて可愛いの!うちのバカ弟とは大違いっ!」
「…司さん、でしたっけ?」

「そう。バカだけどね。
 今回の帰国もその弟が日本支社の支社長になるから
 そのパーティに顔出さなきゃいけなくなったからなのよ…」
とため息をつく。
「へぇ~…。それはおめでとうございます。
 若くして支社長なんて優秀なんですね?」
あたしの言葉に椿さんは盛大なため息をつく。

「え…何か変な事言いました?」
「優秀ねぇ…。ま、仕事ではそうかもしれないわね。
 姉の欲目で言えば可愛い所もあるけれど
 それでも人間としてはダメよあんなの。
 つくしちゃんはああいう男に引っかかっちゃダメよ?」
と力説してくる。

「あはは…。何だかわかりませんけど
 少なくともあたしと司さんが
 どうにかなるなんてあり得ないですから大丈夫ですよ~」
ケラケラ笑うあたしに

「あの子がもう少しまともだったら
 つくしちゃんオトして嫁にもらえって言うのにな…
 そしたら本当に妹になってもらえるのに…残念だわ」
と本当に残念そうにため息をつく。

と、そこに
「つくし…よく来たね」
と入って来たのはタマさん。

「タマさん!お久しぶりです!」
そう言ってかけよるとタマさんも笑ってくれる。
「あんたって子は椿お嬢様が連れてこないと顔見せないんだから
 出かけ先であんたが来てるって聞いて急いで帰ってきたんだよ…」
「当たり前ですよ!気軽に遊びに来れるような所じゃないです!」
と笑うあたし。


それからタマさんも加わって女3人で
話していると、突然部屋の扉が勢いよく開いた。


「姉ちゃんっ!いつの間に帰って来てたんだよ!?」
そう言ってそこに立っていたのは
顔だけは椿さんによく似たクルクル頭の長身の男…。



道明寺司…。最低最悪のあたしの天敵のような男。





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The one 2

珍しく仕事が早くに終わって邸に帰ると使用人から
姉ちゃんが帰って来てると聞く。

なんだよ!今日帰ってくるなら
事前に言ってくれてもいいじゃねぇか。


『The one』   第2話



「司。ノックぐらいしたらどうなの?
 お客様だって来てるのに失礼でしょ」
と姉ちゃんの言葉に視線を移すと

「…お邪魔してます」
と一瞬だけこっちを見て
ペコッと頭を下げるとスッとオレから視線をそらす女。

「司は初めてだったかしら?
 紹介するわね。牧野つくしさん、
 あたしの命の恩人で大事なお友達なのよ」
と姉ちゃんが言えば、

「何でも街で、椿お嬢様が貧血で倒れそうだった時に
 つくしが助けてくれたそうで…。
 だからいつもSPをつけて下さいと申してますのに
 このお転婆お嬢様には困ったもんですよ…」
とタマが姉ちゃんをジト目で睨んで続ける。
「つけてたわよ!だけど
 買い物に夢中になってたら
 いつの間にかはぐれてたんだもの…
 女の足について来れないSPが軟弱すぎなのよ…」
と姉ちゃんが珍しくバツが悪そうにしてるトコを見ると
マジでヤバかった時にこいつが助けたって事か。

「…世話になったみてーだな?」
オレが言うと、
「あ~…いえ。あたしも貧血よく起こすから
 体調悪そうなのも見てればわかるし、
 そう言う時の対処方も知ってただけで…」
とまるでオレじゃなくて姉ちゃんとタマに応えるように
こっちを見もせずに答える。

だけどそれを気にしてるのはオレだけのようで
「でもきっとあれは
 私とつくしちゃんが出会う為の運命だったと思うの」
と姉ちゃんはニコニコしていて

「まぁ、確かに。あの件がなければ
 あたしもこうしてつくしと話す事なんてなかったですけどね
 でも、いくら悪気がないとは言え、
 SPを無意識に撒くようなお転婆はほどほどにして下さいな。
 お嬢様に何かあったらあたしゃ心臓が止まってしまいますよ」
とタマまで呆れながらも頷いている。

それからしばらく話しながら
さりげなく牧野に話を振ってみても
牧野は相変わらず
姉ちゃん達に答えるような態度で全然こっちを見ねぇ…。

まるでオレがここにいるのを無視してるようで
気に食わねぇ…。

「牧野…お前仕事は何してんだ?」
と今度こそこっちを見ろ、と思いながらオレが言うと

「弁護士さんよ」
と答えたのは…突然現れたババァ。

「お母様!早かったのね?」
そう姉ちゃんが驚くのも無理はねぇ。

ババァがこんな時間に邸にいるなんて
いつ以来だ……って初めてなんじゃねぇの?

「牧野さんがいらしてるって聞いてね。
 ちょうど近くにいたから
 先日のお礼も兼ねて寄ったのよ。すぐにまた社に戻るわ」
そう言って牧野のすぐそばに来て

「この間はお休みだったのに申し訳なかったわね。
 あなたの言うとおりにしておいて正解だったわ。
 事務所を通してちゃんと相談料も請求して頂戴ね」
「いえ!そんな! お話の中でちょっと出た事に
 あたしが勝手に答えただけなので気にしないで下さい。
 お役に立てたなら良かったです」
とさすがの牧野もババァ相手だと緊張するのか
立ち上がって手をブンブン振っている。

「あ?ババァも牧野と知り合いなのかよ」
オレが言うと

「娘が世話になったのよ?当たり前です。
 そのお礼に伺った際に私も親しくなってね
 つい、仕事の事まで話しこんでしまって
 弁護士の立場からアドバイスを頂いたのよ」
と普段「鉄の女」と呼ばれる人物と同一人物なのかと思うほど
柔らかい表情を牧野に向けるババァ。
 

それからしばらく牧野と話してババァは
また食事でも、とちゃっかり約束もとりつけて部屋をあとにする。


その間もやっぱりこいつは
俺と目を合わそうとはしなかった。




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The one 3

話もひと段落したところで
「そろそろお土産も見てもらおうかしら~」

姉ちゃんはそう楽しそうに言うが、
土産らしい物はこの部屋に見当たらない。


『The one』   第3話


「あ?土産なんてどこにもねぇじゃん」
オレが言うと、

「ここにはね。つくしちゃんの部屋に置いてあるのよ」
と訳わけんねー事を言いだす。

そんなオレの疑問を察したタマが呆れた顔して
「椿お嬢様が帰国の度に土産を大量に買ってくるんですが
 あまりの多さにつくしの家には入りきらなくて
 受け取ってくれないって泣きつくもんだから
 この邸に有り余る部屋の1つをつくしの部屋にしてしまえば
 いいんじゃないかって提案したんですよ。
 それ以来ますます土産の量が増えちまって
 もうすぐ2つめの部屋を用意するはめになりそうな勢いですがねぇ…」
とタマがため息をつく。

この邸にこいつ用の部屋…?
そんなもん聞いた事もねぇぞ…。

嬉しそうに牧野の手を引いて
その牧野部屋とやらに行く姉ちゃん達になんとなくついて行くと
姉ちゃんの私室の近くに設けられたその部屋のクローゼットは
服や鞄に靴、装飾品が綺麗に整頓されていて
ここだけで店が開けそうなくらいの量だった。

その一角に今回買ってきた分だと思われる
まだ手つかずの箱の山がある。

「椿さん…またこんなに買ってきて…」
と牧野はその山を見て、ガクッと頭を垂れている。

「あら、これでもずい分減らしたのよ?」
と姉ちゃんはそんな牧野に構うことなく
1つの箱を開けて出してきたドレスを
牧野に合わせて「やっぱり似合う!」満足そうに微笑む。

こうなったらもう完全に姉ちゃんのペース。
フィッティングルームに入っては
あれこれと着せ替え人形よろしく次々と着替えさせられている牧野。

その様子を入口の近くで立ったまま黙って見ているオレとタマ。

「姉ちゃん、楽しそうだな。…牧野はどうなのかわかんねぇが」
オレがボソッと呟くと

「えぇ。つくしは申し訳ないってそればっかりだけど
 椿お嬢様はつくしを本当の妹のように可愛がってるからね。
 つくしもその愛情を感じているから
 困惑はしてても邪険には出来ないんだろうね…。優しい子だよ、本当に」
とタマも困ったように笑う。

「あぁ…そうだな」

考えてみれば
あいつは昔からそうだったな…。

オレが牧野をぼーっと見ていると

「つくしが気になりますか?」
とタマ。
「あ?なんだよそれ」
「いやね。椿お嬢様のお友達とは言え、
 坊っちゃんが初対面の人間、それも女性に
 こんなに構ってるのは初めて見るような気がしたんでね…」
そう言ってニヤっと笑う。

「あ?誰が初対面…」
そう言いかけた所で

「司!これどう?やっぱりつくしちゃんにピッタリよね?」
と姉ちゃんがオレの前に牧野を突き出す。

姉ちゃんによって全身コーディネートされた牧野は
確かによく似合っていて…マジで綺麗だと思った。

だけど…。

「ちょっ…椿さんっ!」
と目の前に立って向き合っていても
やっぱりオレと目を合わせようとしないこいつにイラつく。

だからつい…

「いいんじゃねぇの?
 貧乏人のお前には一生かかってもできねー贅沢だろ?」
と自分でもガキくせぇと呆れるほどの悪態をつくオレの言葉に

「司っ!!あんたって子はぁぁぁ!!」
と今にも蹴りが飛んできそうな姉ちゃんを止めたのは

それよりも早く、
ドスッ!と鈍い音と共にオレの腹に打ち込まれた1発の強烈なパンチ。

「あたしは確かに貧乏人だけどね!
 あんたみたいに性根が腐ってるよりはずっとマシよ!」
と漸くオレに視線を向けて怒鳴りつけた牧野。

相変わらず的確に鳩尾を打ってくる
こいつの拳は強烈で息もままならない程苦しいが。

こいつが少しも目をそらさずに
まっすぐオレを見てる事にどこか喜びさえ感じる。

そんな牧野に抱き着いて
「つくしちゃん!よくやったわ!!
 そうよ。こんなバカ放っておいて行きましょ?」
とまた牧野を連れて奥に行く。

「…今のは坊っちゃんが悪いですよ。
 いい歳なんですから女性の扱いくらい覚えてくださいな」
「あぁ…わかってるつもりだったんだけどな。
 ……どうやら大きな勘違いだったみてぇだな」
オレの言葉に
呆れたように盛大なため息をつくタマ。


仕方ねぇだろ。
オレも今思い出したんだよ。


あいつが狂暴だって事も。

とっくに忘れたつもりだったこの想いもな。






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The one 4

出会いはオレ達がまだ高校生だった英徳学園。

最悪の出会いだったが、
あの事件がなければオレは
牧野に惚れる事もなかったのかもしれねぇ。


『The one』   第4話


階段から降ってきた女をかばって
オレ達に啖呵を切ってきたのがあいつだった。

「自分で稼いだこともないくせに偉そうな事言うんじゃないっ!」

あの頃のオレ達に面と向かって
そんな事を言う奴なんていねぇあの学園で、だ。

さすがに女相手にやるのもどうかと思ったが
赤札貼ってやればすぐに泣きついてくんだろうし
それで許してやるつもりだった…。

それなのにあいつは
あろうことかオレ達に赤札を貼り返してきやがって
「宣戦布告よ!」
とオレ達に真っ向から勝負を挑んできた。

今思えば
あの時のあいつのまっすぐな瞳に
オレはすでに囚われていたのかもしれねぇ。

あの手この手であいつを苛めて
その度にあいつはブチ切れてオレを怒鳴りつけてきたが
オレはあいつのそんな強い瞳にどんどん惹かれてたんだろう。

でも1ヶ月くらいした頃…。
あいつは突然学園を退学してしまった…。

いや…もともとそう仕向けてたのはオレなんだけどよ。

「なぁんか。あいついねぇと静かだよな」
「あぁ…面白い奴だったよな、あの牧野って奴」
総二郎とあきらがそんな事を言っていて、
口には出さなかったがオレもそう思っていた。

あいつがオレの周りにいたのはたった1ヶ月くらいだったのに
今まで感じた事のねぇ喪失感を覚えて
出会う前の自分がどうやって
毎日を過ごしていたのかわかんなくなった。

ターゲットがいなくなったからだと思って
適当に赤札貼っても何の手ごたえも感じなくて

やっとこの喪失感の原因がお前だと知る。


お前がいなくなって
やっとオレはお前が好きだったんだと気付いた。


自分の気持ちを自覚した途端、
お前にどうしても会いたくなって
転校先を調べて会いに行った…。

目立たねぇように車を手前で止めさせて
校門まで歩いて行ってすぐにお前を見つけた時は
やっぱりオレとお前は
運命で結ばれてるのかと思って嬉しかった。

それなのに…。

そこで見たのは
転校してきたばっかには見えねぇくらい
たくさんの仲間に囲まれて笑ってたお前…。

オレには1度だって向けた事がねぇ笑顔。

オレはお前がいない毎日を
どう過ごせばいいのかさえわかんねーっつぅのに
お前はオレがいない世界で
そんなに輝いていられるっていうのか?

…そりゃそうか。
あの学園であいつの居場所を奪ったのは
他でもねぇ、このオレだ。

むしろオレがいないからこそ
お前はそんなに輝いてられるんだよな。

あれが本来のお前なんだと思うと
声をかける事も出来なくて、
お前もオレに気付く事なくどこかに行っちまった。



それがお前を見た最後。


あれからオレも適当に女と付き合った事もあったし
お前の事だって思い出にしたつもりだった。

だけど…。

今のこの感情のどこをどう誤魔化したって
思い出だなんて言えそうにねぇ。

お前にこっち向いてほしくて。
オレにも笑って欲しくて。
出来る事なら触れたくて…。

オレの細胞はこんなにお前を求めてる。

こうして再びオレの前に現れるって事は
やっぱりお前はオレの運命の女だからだろ?

…決めた。
今度こそお前を手に入れてやる。




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The one 5

あれから牧野はオレと目を
……合わせるはずもなく。

それどころか姉ちゃんまでオレと目を合う度に
不機嫌な顔をオレに向けてきて立場がねぇ。


『The one』   第5話


だからと言って
牧野がそこにいるのに
他の部屋に移動する気にもなれなくて
牧野の部屋に置いてあったソファに腰かけて
一瞬でもこっちを見ねぇかと牧野から視線を外さずにいる。

「そんなに睨んでちゃ、つくしが可哀そうですよ…」
とタマ。
「あ?誰が睨んでんだよ。見てるだけだろ」
本当は見惚れてる、と言うのが正しいんだろうが
それをタマに言うほどオレの頭はボケちゃいねぇ。

それから小一時間ほど
姉ちゃんは牧野を着せ替え人形にして遊んで
漸く満足したのかと思ったら

「ご飯も食べて行くわよね?」
と聞いておきながら返事も聞かねぇで
使用人に牧野の分まで準備をさせる。

当の牧野はなんだかんだと断ろうとしていたが
強引さではオレにも勝る姉ちゃんだ。

手際よく料理を運ばせて、
「もう準備しちゃったから、
 つくしちゃんが食べてくれないともったいないでしょ?」
とにっこり笑う。

もったいない…ってなんだそれ。
そんな事を思ってると
「つくしは“もったいない”って言葉に弱いんだよ。
 椿お嬢様はこの言葉を巧みに使って毎回毎回
 つくしに土産を受け取らせて、ご飯も付き合わせるんですよ…」
とため息をつく。

タマが言うように、
姉ちゃんにもったいないと言われた途端
諦めたように席につく牧野。

食事が始まると、
どれを食べててもすげぇ美味そうで
自分でも出来そうな料理だと
シェフにレシピを聞いたりして手帳にメモっている。

普段、オレが食う時は淡々と食べるだけで
特に美味いとも不味いとも言わねーからか、
美味そうに食って、嬉々とした表情でレシピを聞いてくる牧野に
シェフも喜んで家庭でもできるように
アレンジまでしてレシピを教えたりしている。

その様子を楽しそうに見ている姉ちゃんとタマ。
…あと、オレもか。

食事をしていて楽しいと思ったのは
今日が初めてかもしれねぇ…。




「つくしちゃん、本当に泊まって行かないの?」
と食べ終わった頃に姉ちゃんが聞く。

「はい…。明日も仕事なので…すみません」
と牧野は申し訳なさそうに断りを入れて
「あたし、そろそろ失礼しますね。
 椿さん、お土産もご飯もありがとうございました」
そう言ってペコッと頭を下げる。

「いいのよ。全部私がしたいからしてるんだもの。
 私こそ付き合ってくれてありがとうね。今車用意させるわ」

「あ、いえ!お気遣いなく!
 それにあんなスゴイ車で帰ると目立ってしょうがないので…
 今ならまだ電車もあるので大丈夫ですから!」
と慌てて拒否して
「楓さんにもよろしくお伝えください」
そうタマにも挨拶して部屋を出て行った。


……オレには何もねぇのかよ。

オレの存在だけを無視して帰った事には
姉ちゃんもタマも気付いたようで

「あ~あ。やっぱり嫌われたわね。
 万が一にもつくしちゃんが司を気に入ってくれたり…
 なんて思ってたんだけどなぁ。やっぱり司じゃ無理よねぇ」
「お嬢様、バカ言っちゃいけませんよ。
 あの態度でどうやったら好かれるって言うんです」
と2人で盛大にため息をつく。

「…なんだよ、それ」
「だから、もしも司とつくしちゃんがくっついてくれたら
 将来的には正真正銘、私の妹になるのに…って思ってたのよ」
と酒も入ってほろ酔いの姉ちゃんは
牧野が自分の妹になるのが夢だと語り出す。

「おや。つくしの忘れ物かね…」
そう言ってタマが牧野の座っていた席で拾ったのは
さっきシェフに聞いたレシピをメモっていた手帳。
「あら、大変。まだ遠くには行ってないわよね?」
そう言って使用人を呼ぼうとする姉ちゃんを止めて
タマから手帳を奪う。

「司?」
「坊っちゃん?」
オレの突然の行動に首をかしげる2人に
部屋を出る直前、振り返って言ってやる。


「姉ちゃんのその夢、叶えてやるよ」





いつも応援ありがとうございます♡

** おまけ **

「……タマさん。今の何だと思う?」
「…さぁ?よくわかりませんが
 坊っちゃんはつくしを気に入った…って事ですかねぇ」
「バカのくせに、女見る目はあるじゃない。私、夢叶うのかしら?楽しみね」
「……あたしゃ養子に迎える方が早くて確実だと思いますがね」

プロフィール

koma

Author:koma
管理人komaの
くだらない妄想の世界へ
ようこそいらっしゃいました。

基本テイストとしては
ラブコメ風味の
ゆる~いつかつく道を
突っ走っております。

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